歪んだ月が愛しくて1
途端、指先に熱が走る。
「…っ」
どうやらいつの間にか眠っていたようだ。
危ない危ない、寝煙草なんてシャレにならない。
ふと見上げれば空は青から茜色に変わろうとしていた。
そんな空を見上げながら夢の中の光景を思い出す。
(また…)
もう何度も見たそれは悪夢としか言いようがない残虐で悲惨なものだった。そして俺の過去の過ちそのもの。
まるで俺に「忘れるな」と訴えているかのようで嫌な部分だけを切り取ったみたいに延々と続く。
毎日続くそれに正直参るが、それが俺の背負い続ける業だと改めて実感させられる。
「忘れねぇよ…」
徐に腰を上げてフェンスの向こうを見つめる。
でも辺り一面に広がる緑に心が安らぐことはなかった。
きっとあの悪夢を見たからだろう。
もっと近くに行けば違う景色が見えるかもしれない。
そう思ってフェンスに足を掛けて登って行く。
地道に登って行くのが結構面倒だったので、頂上に辿り着くとそこから飛び降りてフェンスを越えてギリギリの縁に足を投げ出して座った。
でもやっぱり見える景色は同じだった。
どこにいても俺があの色に支配されているように視界に映るのは一面の緑。所々に校舎と思われる白い建物がポツンポツンと見えるだけ。
悪夢は続く。この景色と同じように俺が生きている限り終わりはないと言われているようだった。
「 」
風が少し冷たい。
まるでアイツの名前を呼ぶことさえも責められてる気分だ。
でも責められるのは慣れてる。
『…ごめん、シロ……』
それなのにアイツは俺に対して謝った。
謝らなきゃいけないのは俺の方なのに。
「ごめん、 …」
空に向けて手を伸ばす。
でも俺の手の中には何も残らない。何もない。
それでもどうか想うことだけは許して欲しい。
もう二度と会うことは許されない大切な彼等を。
俺の手の中には何も残らなくても彼等と過ごした日々は俺の中に確かにあるから。
「―――死にてぇのか?」
「、」
それは恐ろしく凛とした低い声だった。