歪んだ月が愛しくて1



「今日のおやつは洋梨とブラックベリーのフルーツケーキです」



テーブルの上に出されたケーキに視線が吸い寄せられる。



「わぁ、美味しそう!」

「相変わらず手が込んでるな」



未空が美味しそうと涎を垂らしてるのも無理はない。
九澄先輩が用意してくれたケーキは見た目も華やかでまるで作品のようだった。
これがおやつでポンッと出て来るなんて羨ましい限りだ。流石は覇王様。



「九ちゃん、もう食べていい?」

「どうぞ…と言いたいところですが、手洗いうがいは済ませましたか?」

「済ませたー!いっただきまーす!」



未空は一目散にケーキに食らい付く。
流石にフォークは使っていたが一口がでかくて食べるのも早かった。



「……未空、本当に手洗った?」

「アラッタヨ」



いや、洗ってねぇだろう。

せめて除菌シートで手拭くとかしろよ。



「適当なこと言ってんじゃねぇぞ猿。風邪引いて寝込んでも知らねぇからな」

「俺風邪引かねぇもーん」

「ああ、バカだからか」

「誰がバカだ!」

「あっ、それ俺のだろうが!食い意地張ってんじゃねぇぞこのバカ猿!」

「天罰!人のことバカ呼ばわりするからだよ!」

「バカにバカって言って何が悪い!」

「ほらまた言った!」



未空は陽嗣先輩のケーキにフォークを刺して自分の口へと運ぶ。
そのせいで2人の言い合いがヒートアップすることになったのは言うまでもない。



「立夏くんも召し上がって下さい」

「この2人が邪魔で食べられません」

「いない者として考えて下さい。いつものことですから」



そんな満面の笑みで言われても困るんですけど。



「お腹空いてるんですよね?」

「……頂きます」



何故それを知っているのかはさて置き、ケーキに添えられたフォークを手に取りゆっくりとケーキに刺す。
それを口に含むとブラックベリーの甘酸っぱい酸味の後に洋梨のさっぱりとした甘さが口腔に広がる。



「っ⁉︎」



あまりの美味しさに思わず目を瞠る。
それに気付いた九澄先輩が穏やかな笑みを浮かべて俺を見ていた。



「お口に合いましたか?」

「……はい」

「それは良かったです」

「あの、これはどこの…」



店の名前を聞こうとするが。



「ふふっ、それは秘密です」



九澄先輩は口元に人差し指を当てて笑って誤魔化した。
でも俺はどうしても店名が知りたくて無言で九澄先輩を見つめた。


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