歪んだ月が愛しくて1



門扉を潜り抜けると、そこは辺り一面に緑が広がっていた。



「こちらは当学園自慢の庭園です。生徒達はここを中央広場と呼んでおります」



中央広場には手入れが行き届いた様々な種類の草花が鮮やかに咲き誇っている。
薔薇の蔦に張り巡らされたアーチを潜り抜けると最初に目に入ったのは大きな噴水だった。
その中心にはギリシャ神話とかに出て来そうな外人の石像が数体、そのいくつかの石像から水が噴き出ていた。
噴水を囲むように設置されたベンチには何人かの生徒が座って談笑したり読書を楽しんでいた。



「綺麗ですね」



自慢なのも頷ける。



「ありがとうございます。立夏様に喜んで頂けて庭師もさぞかし喜ぶことでしょう」

「花だけじゃないですよ。さっき通って来た薔薇のアーチもこの噴水も立派で…。あ、でも俺芸術とかよく分からないんであくまで個人的な感想ですからね」

「ですが立夏様はこの場所を気に入って下さった」

「気に入ったと言うか…。落ち着いた雰囲気で良いなと思いました」

「芸術と言うものは頭で考えるものではなく直感で感じ取るものなのです。立夏様が直感でそう感じ取って下さったのならばそれは間違いではございません。芸術家はその直感力を見せる者にどう素直に引き出せるかでその者の実力が決まると言われています」

「はぁ…」



よく分からない。



「とは言っても私も芸術には疎いのですが」



主人(マスター)の受け売りです」と言葉を紡ぐ哀さんの表情が一瞬柔らかく見えた。



「文月さんの?」

「はい。無知な私に主人は様々なことを教示して下さいました」

「へー…」



哀さんは文月さんのことを「主人(マスター)」と呼んでいる。
理由は分からないが哀さんが秘書だからってことで勝手に理解していた。



「次は高等部の校舎をご案内致します」

「はい」


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