歪んだ月が愛しくて1



「おい、コーヒーはまだか?」



会長は長い足を組み直して偉そうに言い放つ。
皿に乗ったケーキには未だ手を付けていなかった。



「はいはい、今淹れますよ。3人は何飲みますか?」

「紅茶」

「俺はオレンジ!後ケーキもおかわり!」

「分かりました」



皿を掲げておかわりをアピールする未空に九澄先輩は苦笑して皿を受け取って立ち上がる。



「立夏くんは何にします?」

「お構いなく。食べたらすぐに帰るんで」

「遠慮しないで下さい。4人分用意するのも5人分用意するのも変わりませんから」

「……じゃあコーヒーをお願いします」

「はい。今用意しますね」



そう言って九澄先輩は皿を持ったまま隣の一室へ消えた。
暫くすると淹れ立てのコーヒーのいい香りが漂って来た。
九澄先輩は持っていたトレーをローテーブルに置いてトレーに乗せていたものを皆の前に置いて行く。



「お待たせしました」

「サンキュー」

「ありがとう九ちゃん」

「いいえ。立夏くんもどうぞ」

「ありがとうございます」

「尊」

「ああ」



初対面の時から感じていたが、会長は無愛想な上に態度もでかい。
態々皆の分を用意してくれた九澄先輩にその態度はない。人間性を疑う。



「立夏くん、砂糖とミルクはこれを使って下さい」

「大丈夫です。俺ブラックなんで」



そう言うと九澄先輩は少し驚いた顔を見せた。



「ブラック、ですか?」

「そうですけど」



何?

何か変なこと言った?



「そう言えば食堂でもコーヒーを注文していましたね。あれもブラックで飲んでいたんですか?」

「はい」

「りっちゃんがブラックって何か意外だな」

「ギャップだね、ギャップ!」

「ギャップ?」

「苦いのダメかと思ったからさ。猿みたいに」

「誰が猿だ!」

「お、分かってんじゃん」

「分かりたくなかったけどな!」



俺を挟んだ状態で再び言い合いを始めた未空と陽嗣先輩を無視して九澄先輩が淹れてくれたコーヒーを口に含む。



(やっぱり苦い…)



でも部屋で淹れたのよりも食堂で飲んだのよりも断然美味しかった。


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