歪んだ月が愛しくて1
「コーヒーお好きなんですか?」
そんな質問が降って来た。
たわいもない会話の一部。九澄先輩自身も何気なく放った言葉なんだろう。それに一々真面目に答える必要はないと分かっているのにカップの中の黒に思考が吸い込まれていく。
いつからだろう、俺がコーヒーを飲むようになったのは。
もう昔のことだからよく覚えてないが自虐的な意味で飲み始めた覚えがある。
だって苦いと分かっていて毎日これを飲むなんてどうかしているだろう。
「別に…、好きでも嫌いでもないです」
カップの中の真っ暗な闇を見つめて嘘を吐く。
搾り出したような声色に未空と陽嗣先輩のふざけた声がピタッと止む。
それと同時に4人の視線が俺に集中する。
「何て顔してんだか…」
陽嗣先輩の声にゆっくりと顔を上げる。
他の3人も何か言いたげな表情で俺を見ていたがそれに気付かないふりをしてカップに口を付けた。
「ご馳走様です」
そう言って俺はソファーから立ち上がった。
「美味しかったです。ありがとうございました」
「もう帰るんですか?もう少しゆっくりしていけば…」
「いえ、帰ります」
ここに長居してはいけない。
ここにいると…、彼等といると嫌でも自覚してしまう。
ここは俺の居場所ではないと。
九澄先輩の言葉を遮ってソファーを離れると不意に誰かが俺の腕を掴んで動きを止めた。
「未空…?」
俺の腕を掴んだのは未空だった。
でも未空は俯いたまま何も言わない。
「………」
「……何?離して」
ソファーから立ち上がったまま俺の腕を掴む未空を見下ろす。
すると未空は漸く口を開いてこう言った。
「……リカ、やっぱり生徒会に入ろう」
「え?」
意外だった。
未空の台詞じゃなくてその表情が。
「リカは俺達と一緒にいた方がいいよ」
「………」
未空の表情はとても複雑なもので。
そんな顔、初めて見た。