歪んだ月が愛しくて1



「それなら生徒会長の権限でお前を自由にしてやる。ここは乳離れの出来ねぇガキの来るところじゃねぇんだよ。とっとと家に帰ってママと一緒におねんねしてな」



ブチッと、俺の中で何かが弾け飛んだ。



「尊!お前な…っ」



そう言うと会長は何事もなかったかのように俺達の横を通り過ぎて生徒会室を出て行こうとする。しかし未空はそれを許さない。頭に血が上ってムキになった未空が会長の掴み掛かろうとした。
掴み合いの喧嘩に発展しそうな直前、俺は開き掛けた扉にガタンッと蹴りを一発入れて会長が部屋を出て行くのを阻止した。突然の行動に会長以外の視線が一斉に集まる。



「―――…ぜぇ」

「あ?」



斯く言う会長は大して驚いた様子も見せずゆっくりと俺に視線を移した。



「勝手に決め付けてんじゃねぇよ、タコ」



それが余計に俺の機嫌を損なわせた。



「誰が乳離れも出来ねぇガキだって?足手纏いだの無能だのさっきから好き勝手言ってっけど見もしねぇで決め付けるとはとんだ生徒会長サマだな」

「………」

「俺が本当に無能かどうかはその目でちゃんと見てから判断しろよ」




一度言葉にしたら止まらない。

理性の壁を乗り越え塞き止めていたものが一気に溢れ出す。



「リ、カ…?」

「立夏くん?」

「うっそー…」



……あ、やべ。



「つまりママのところには帰らねぇと?」



黒髪黒縁眼鏡で一見ガリ勉風の俺の変わりように覇王3人が動揺する中、会長だけは表情を崩さず冷静に俺と対峙した。



(ママ、ね…)



そんなもんいたら端っから帰ってるよ。

但し、この世にいたらの話だが。



「くどい」



溢れ出したものは止まらない。



もういいや、この際開き直ろう。

だってもう手遅れだから。色々な意味で。



「男に二言はねぇ。今度は俺の意志で生徒会に入る」



逆ギレと言われても構わない。

文月さんの支配下でも関係ない。



「そんでアンタを泣かす」



俺に喧嘩売ったことを後悔させてやる。

ここまで好き放題言われて黙っていられるかよ。



「……面白い」



途端、会長はフッと口元を緩めた。



「やってみろよ」

「、」



絡められた視線を解くことが出来ない。

逸らしたら最後、こっちの負けだ。



「泣かしてぇんだろう、この俺を」



それが今の俺に出来る精一杯の虚勢だった。



「精々足掻いてみせろ」



引けない。

ここで引いたらきっと後悔する。



そしてまた何か大切なものを失う、そんな予感がした。



「……絶対泣かす」

「上等だ」 



俺の睨みを正面から受け止めて挑発的な笑みで好戦する、会長。
会長のことは苦手だが今ここで目の前にいるこの男から視線を逸らしてはいけないと俺の内に棲まう奴が叫んでいる。
だからだろうか、今この時だけは会長の黒曜石を正面から見据えても何の抵抗もなかった。



「今更撤回は出来ねぇぞ」

「は?」



不意に会長が笑みを深めた。
ニヤリと不気味なその笑みに冷や汗が伝う。
初めて見た無表情以外の表情に内心警戒した。



……何、その顔は?



「男に二言はねぇんだよな?」



……え、


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