歪んだ月が愛しくて1



「―――だそうだ。良かったな」



そう言って会長は悪戯に目を細めた。

ゾワゾワとまた嫌な感じがする。



すると次の瞬間、それを払拭するような強い衝撃と同時に名前を呼ばれた。



「リカ!」

「わっ!?」



その声に振り返ると未空が両手を広げて抱き付いて来たが、俺は未空の体重を支えきれず床に尻餅をついた。



「痛ってぇ…」

「立夏くん大丈夫ですか?」

「はい、何とか…」

「なーにいきなりな押し倒してんだよバカ猿。発情期か?」

「違ぇよ!それに俺は猿じゃねぇ!」

「あっれ〜?そうだっけ〜?」

「そうだよ!」

「陽嗣、話が進まないので黙ってて下さい」

「へいへい」



すると床に座り込んだ俺の目の前に未空の手が伸びて来た。



「ありがと」



そう言いながら未空の手を取るとボソッとした声が耳元に届いた。



「……ありがとうは、俺の方だよ」

「え?」



顔を上げると未空の空色の瞳と目が合った。



「ありがとう!生徒会に入ってくれて!」



屈託のない瞳を細めて満足そうな笑みを浮かべる、未空。

その笑顔にキュッと胸が締め付けられた。



「未空…」



……違う。

俺は未空のために生徒会に入ったんじゃない。



「お礼を言われることなんてしてないよ…」



ただあのバ会長にムカついて。

ここで俺が素直に帰ったら奴の思う壺だと思ったから。



「これは俺の意地」



俯いたまま言葉を零す。
喜んでくれた未空の顔が見れなかった。



「……うん。今はそれでいいよ」



今は?

そう言えば前に陽嗣先輩もそんなこと言っていた。

 

「俺さ、まだリカと出会ったばっかで知らないこともいっぱいあるけど、初めて会った時からリカのことが気になってた。パッと見がり勉でオタクっぽいのに、凄く綺麗で可愛くて…。初めてだったんだ。この子と友達になりたいって思ったのは」



ゆっくりと顔を上げる。
未空がどんな顔をしてそんなこっ恥ずかしい台詞を言ってるのか気になった。



「だからどんな形でも俺はリカと一緒に生徒会をやりたかった。一緒にいたかったんだ」



それが俺を生徒会に誘った理由。

ああ、本当にそれだけだったんだ。深読みした自分がバカみたいだ。



「もう寂しい思いなんてさせないよ」



未空の言葉がスッと俺の中に浸透する。



『上手く言えないけど、その方が絶対楽しいもん。皆一緒にいれば寂しい想いなんて絶対しないよ』



本当は寂しくても良かったんだ。
独りでいるべきだと言う考えは今も変わっていない。
自分の背負うべき罪から逃げ出した俺には大切なものを作る資格はない。
そう思って生きていかないといつまでも未練がましく縋ってしまいそうで怖かった。



でもそんなちぐはぐで歪な俺に未空が気付いてくれた。



「ありがとう」



こんな俺なんかに気付いてくれて。一緒にいたいと言ってくれて。



自然と握られた手に力が入った。


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