歪んだ月が愛しくて1
尊が席を外すと、陽嗣は胸に燻ったままのある疑問を九澄に投げ掛けた。
「……お前さ、何でりっちゃんにあんなこと言ったわけ?」
「あんなこと?」
「“Little Eden”でりっちゃんに謝ったじゃん。あれ何で?」
「何でと聞かれましても自分に非があると思ったからですよ」
「それが分かんねぇんだよ。お前が謝る必要なんてねぇじゃん」
陽嗣はさも当然と言わんばかりの表情で平然と言ってのける。
その言動に九澄が目を細める。
「未空が初めて立夏くんをここに連れて来た時、僕達は彼を試すようなことを言いました。彼が傷付くと…、少なくとも不快に感じると分かっていたにも拘わらず」
「そんなのいつものことじゃねぇか。今更何言ってんだよ」
「今更…、確かに今更ですね」
彼等の過去は暗く重い。
誰にも暴くことが出来ないように何重にも鍵を掛けた箱に厳重に保管されている。
しかしこのままでいいのか。
暴かれないまま暗く閉ざした場所に眠っていることが本当に彼等のためなのだろうか。
……分からない。
正解なんてきっと誰も分からない。
「でも今更だからと言って立夏くんに対して今までのような扱いは出来ません」
「、」
何かが変わる予感がする。
それが吉と出るか、凶と出るか。
今の段階では誰にも判断付かぬことだが、九澄は自身の直感に素直に従ってみるのも有りだと思った。
「貴方も見ていたら分かるでしょう、尊と未空のあの入れ込みようを」
「それは…」
「深入りしろとは言いません。ただ立夏くんには何かを変える力がある。僕にはそう思えてならないんです」
「………」
曖昧なものに縋るつもりはない。
これは祈りだ。
「お前も…」
弱々しい声。
いつもの彼からは想像出来ない。
「お前も、りっちゃんに期待してんの…?」
その声色に九澄は一瞬目を丸くさせた。
それと同時にある感情を抱かせた。沸々と高揚する感情が止まらない。
口元が緩む。
「さあ、どうでしょうね」
疑念と困惑を残して九澄は生徒会室を後にした。
「……クソがっ、」
後に残された陽嗣はソファーに項垂れながら手に余る感情に苦戦していた。
陽嗣に芽生えた感情。
それは今まで感じたことがない焦燥感と嫉妬心だった。
少しだけ感じた、何かが変わる予感。
「何か」なんて明確には分からない。
しかし「藤岡立夏」と言う新たな存在が彼等に刺激と変化を齎したのは確かだった。