歪んだ月が愛しくて1
「噂も偏見もくだらない」
「くだらない…?」
「くだらないよ。ちゃんと自分の目で見て判断しないと…」
『仙堂は生徒会長様の犬なんだよ』
「きっと、大切なものを見落とすことになる…」
全てを否定するつもりはない。
でも噂や偏見を信じるくらいなら俺は本人の口から直接聞きたい。
「でも、俺は本当に…」
未空はそう言って自分自身を否定するくせに最後まで言葉を続けなかった。いや、言葉が出て来なかったのかもしれない。
その様子から心底後悔しているのがよく分かる。過去の行いを後悔するくらいなら初めからするべきじゃなかった。でもそんな正論はこの際どうでもいいことだ。
そもそも俺だって…、
『…ごめん、シロ……』
悔やんでも悔やみ切れない想いがある。
人のことなんて言えない。
「……後悔してるなら、同じことを繰り返さなければいい」
「え、」
「過去を背うのは大事だ。でも今更後悔したってもう遅い。過去に戻れるわけでもないしなかったことにも出来ない。一度傷付けてしまったらもう二度と元には戻らないんだから…」
願っても、願っても。
俺の願いは叶わなかった。
「リカ…」
悔やんでも、悔やんでも。
自分への怒りと憎しみが消えなかったように。
「でも後悔して気付いたことがあったんじゃないの?」
俺がそうだったように。
きっと未空も何かしら得たものがあったはずだ。
本人がそれに気付いているかどうかは分からないが…。
「他人の痛みって言うのは後悔しないと気付けないこともあるから…」
でも俺の場合は既に手遅れだった。
誰よりも…、何よりも大切な人を傷付けて気付くなんて遅過ぎた。
気付いたらもう取り返しのつかないことになっていて、最後は逃げるように彼等の前から姿を消した。
あの時の俺にはそれしか方法が見つからなかった。
だから…、
「だから、未空は忘れないで」
未空には俺のような思いをして欲しくない。
何となく、そう思った。
あんな顔見せられたら余計に…。
「自分がやってしまったことを…。忘れたらまた思い出して。人は忘れ易くて移り気易い生き物だからこれまでの過ちを全ては覚えていないかもしれない。でも気付いた時にすぐに行動に移せば手遅れにならずに済むこともあるから…、だから何度だって思い出して自分の罪とちゃんと向き合って」
今気付いたなら今からやればいい。
後悔したくないなら後悔する前に行動に移せばいい。
そんな簡単なことじゃないのは分かってるけど、でも自分から動かなかったら結局何も変わらない。それが現実だ。
「自分の過ちや弱さを認めることは簡単じゃないよ。それが出来る未空はきっと強い人間なんだね」
「………」
「………」
「………」
「……………なーんて」
はずっ、何語ってんだろう。
自分が出来なかったからって未空に託すなんてどうかしてる。
(本当、何やってんだか…)
未空の頬から手を離して歩き出す。
いつまでも触ってたらまた変に誤解されかねない。
「待って」
そんな俺の腕を未空が掴んで動きを止める。
その表情は……うん、納得出来ないって顔だな。
「リカは、どうしてそんな…っ」
「………」
踏み込みたいのに踏み込めない。
そんな未空の心情が手に取るように分かる。
でも踏み込ませない。
境界線の引き方は間違っていないはずだ。