歪んだ月が愛しくて1
◇◇◇◇◇
いくつもの視線が絡み合う中、二つの影が屋上から地上を見下ろしていた。
「―――あれか?」
「そ、噂の転入生くん」
彼等の視線の先には渦中の人物。
屋上からでは距離があるためはっきりと認識出来ないが、そこには黒髪の如何にも優等生らしき男子生徒が漆黒のスーツを身に纏う女性の後に続いて北棟へ入って行く様子が見て取れた。
「………」
彼等は警戒していた。
しかしただの転入生に警戒するほど彼等は暇を持て余していない。
高等部からの異例の転入生に何かあると本能的に察していたのだ。
そして隣に並ぶ女性もまた転入生を警戒する材料の一つだった。
「しかも美女のオマケ付きと来たもんだ。羨ましいね」
それが男の本心でないことは分かっていた。
おちゃらけて見せて態と不真面目な態度を取り本心を隠すことがこの男の処世術だった。
「興味ねぇよ」
しかしもう一方の男の興味は美女ではない。
特例で認められた転入生の正体とその目的を解明することだった。
「美女に興味ねぇってお前それでも男かよ。枯れてんな」
そう言って男は興味がないと言わんばかりに転入生から視線を外しフェンスに背中を預け胸ポケットから煙草を取り出す。
「なら、お前はどっちだ」
ただ、この男は違った。
男は転入生から視線を逸らさない。
いや、逸らせなかった。
まるで何かに吸い寄せられるかのように黒曜石の双眸は真っ直ぐに転入生だけを捉えていた。
「どっち?」
彼等は見極めなくてはならない。
この学園を統べる覇王として。
「美女と謎の転入生。お前ならどっちに唆られる?」
敵か、それとも味方か。
「そりゃ勿論、後者だろう」
その言葉に太陽よりも眩しい光が注がれる金糸の髪を持つ男は無意識に口角を上げた。