歪んだ月が愛しくて1
俺をこの場に1人残して悠然とエレベーターに乗って行ってしまう、みっちゃん。
それと同時に隣の部屋から頼稀とのんちゃんが顔を出した。
「おはよう。邦光は行った?」
「……近所迷惑」
「はよ!ごめんごめん!」
「立夏はまだ起きないの?」
「うん。爆睡してるみたい…」
「昨日遅くまで家にいたからかな?」
「かもな」
「は?」
……何それ?
「聞いてないんだけど…」
「一緒に晩飯食っただけだぞ」
「妬かない、妬かない」
妬いてないよ。
でも何か面白くない。
「それにしても本当出て来ねぇな」
「もう先に起きて食堂に行ったんじゃない?」
「そうかな…」
ここに来てもう10分くらい経つ。
そろそろ起きても可笑しくないのにリカは一向に姿を現さない。そればかりか室内から物音すら聞こえなかった。
「リカー、部屋にいるのー?」
これが最後だ。
これで反応なかったら…。
ドテッ
「あ、今…」
「音したな」
やっぱりまだ中にいたんだ。
良かった、先に行かないで。
カチャと、ゆっくりと扉が開く。
「んー…」
髪に寝癖を付けたままリカは黒縁眼鏡を少し上げて目を擦りながら部屋から出て来た。
その目はまだとろんとしていて焦点が合ってないように見えた。
「可愛い…」
眼鏡をしててこれだもん。
外したら大変なことになるのは目に見えてる。いや、絶対大変だ。
この間、偶然にもリカの素顔を見た時はびっくりし過ぎて誤魔化しちゃったけど、あれを直視して赤面しない人間はいないと思う。俺達覇王に引けを取らない……いや、それ以上ってくらい顔のパーツが整い過ぎ。それくらいリカの素顔はヤバい。眼鏡を掛けてて正解だよ。
あれを大衆の面前には晒せない。
そんなことしたら確実に悪い虫が付くもん。
だから迂闊に外さないで欲しい。そう言う可愛い顔も無闇矢鱈と見せないでよ。頼稀やのんちゃんでも嫌だ。
でもこればっかりは仕方ないとも思ってる。だって可愛いもんは何やってても可愛いんだもん。しょーがないよ。
(でもリカの素顔を知ってるのは俺だけ…)
その優越感に浸って口元を緩ませていると不意にリカに名前を呼ばれた。
「……みく?」
「え、あ……おおおはよっ!み、皆で朝飯食いに行こう!」
あの日、リカの素顔を見たあの時からそんな独占欲に似た優越感が俺の中に渦巻いていた。
「早く支度しろよ」
「お前待ちだぞ」
「……ん」
……ヤバい。何この生き物。
超可愛いんだけど!
普段とのギャップ激し過ぎでしょう!
「……いま、なんじ?」
「8時10分だよ」
「因みに9時から1限始まるから朝飯の時間差し引いても後10分くらいしか時間ないぜ」
「てか校舎には25分までに入らなきゃ遅刻だぞ」