歪んだ月が愛しくて1
「そろそろ行くか」
「そうだね。もうこんな時間だし」
「早く戻らないとミーハーラッシュに巻き込まれるからな」
「ミーハーラッシュ?」
「あれ、立夏まだ知らねぇの?」
「……知らない」
「いつもは時間ずらしてるもんね」
そう言われて俺が寝坊したせいだと悟る。
申し訳ないと思う反面そのミーハーラッシュに少しだけ興味が沸いた。
「……そろそろだな」
「この際拝んでやろうぜ。立夏も見たことないって言うしさ」
「今から出て行ってもバッティングしちゃうもんね」
「仕方ねぇか…」
その直後まるでタイミングを見計らったかのように食堂中に男子校ならぬ黄色い声が鳴り響いた。
「な、何っ!?」
「来たな」
「お出でなさった」
「あれがミーハーラッシュの正体だよ」
そう言って葵が指差した先には先程まで席に着いて食事をしていたであろう生徒達が一斉に立ち上がり食堂の出入口付近に群がっている姿があった。
「あれが…」
「ミーハーラッシュだろう?」
確かにラッシュではある。
でもどこがミーハー?あの群れの中に誰かいるのか?
「巻き込まれなくて良かったね」
「全くだよ。アイツ等も来る時間考えればいいのにさ」
「アイツ等?」
「まあ見てろよ」
そう言われて離れた場所からその様子を窺っていると徐々に人混みが捌けて行くのが分かる。
その中から現れるであろう人物に視線を集中させると、そこには先日会ったばかりの端正な顔があった。
「おっ、りっちゃんじゃねぇの。この間振りじゃん」
「おはようございます。こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「陽嗣先輩に、九澄先輩…」
この2人がいると言うことは、まさか…。