歪んだ月が愛しくて1
「痛ってぇな!何しやがんだこのサドキング!」
「喧しい。ギャーギャー喚くな」
「誰のせいだ!?」
「テメーのせいだ」
「いや、オメーのせいだよ!!」
どっちもどっちだよ。喧しい。
「大体お前は昔からそうだ!気に食わねぇことがあるとすぐ俺に当たりやがって!」
「その元凶の殆どがテメーだろうが」
「また俺のせいってか!?」
「他に誰がいる?」
「お前な…っ」
「……煩い。ここは食堂ですよ」
いつまで経っても終わらない口論にイライラして仲裁に入る。
余所でやってくれるなら止めないさ。俺だってそこまで野暮じゃない。でも流石に俺を間に挟んだ状態で延々と喧嘩されたら嫌でも止めざるを得なかった。だってコイツ等煩ぇし。
しかし彼等の口論は止むばかりか俺の機嫌を更に低下させた。
「あ?」
「だから?」
ブチッ
……だから、だと?
息ぴったりに声を揃える、会長と陽嗣先輩。
それが余計に俺の逆鱗に触れた。
「煩ぇって言ってんだよ!喧嘩してぇならテメー等で勝手にやれ!俺を巻き込むな!そして場所を考えろこの公害クソ野郎共!!」
その瞬間、食堂中が静寂に包まれた。
先程までの黄色い歓声が面白いくらいピタッと止んだ。
「……おい、戻ってんぞ」
その声にハッと我に返る。
自分がやってしまったことへの後悔から勢いよく左右を見渡せばポカンと口を開けたまま固まっている陽嗣先輩と明らかに怒っているであろう無表情の会長がそこにいた。
……ヤバい。
俺、マジで退学か?
「……やり過ぎ」
「つ、つい…」
「この命知らず」
「ははっ…」
もう笑うことしか出来ない。
希と葵も口を開けたまま固まってるし、ああもうどうしよう。
「りっちゃん」
やけに真剣な陽嗣先輩の声がする。
その声に顔を上げて陽嗣先輩を見ると不意に温かいものに包まれた。
「よ、陽嗣せ…「やっば。惚れそう…」
……ん?
何でそうなる?
再び爆発的な叫び声が食堂を支配する。
陽嗣先輩に抱き締められていることに気付いたのはその後のことだった。