歪んだ月が愛しくて1



「……なあ、キスしていい?」

「はい?」

「じゃあ…」



じゃあ、じゃねぇよ。いいなんて一言も言ってないから。
それでも陽嗣先輩は徐々に距離を縮めて来る。
抵抗したくても強い力で抱き締められているため押し返せない。
その綺麗な顔が徐々に近付いて来るにつれて自然と頬に熱が籠もるのを感じながら無意識に顔を背けてぎゅっと固く目を瞑った。



……あれ?



しかし訪れるはずの衝撃が一向に来ない。
不思議に思い恐る恐る目を開けると、そこには青褪めた陽嗣先輩の顔を会長の大きな手が覆っている……じゃなくて握り潰そうとしている場面だった。



「テメー…マジでいい加減にしろよ。いつまで寝惚けてるつもりだ。その鬱陶しい頭ごと綺麗さっぱり目覚めさせてやろうか?」

「お、起きてまーす…」

「全く口程にもありませんね」

「そのまま潰しちゃえば?」



会長は舌打ちをしながら渋々陽嗣先輩の頭から手を離す。
陽嗣先輩の顳顬辺りに会長の手痕が残っていたのは黙っておこう。



「おい」

「ぐぇっ」



会長の声に振り向こうとした時、後ろからワイシャツの襟を掴まれ強引に引き寄せられた。



「お前は豚か?気持ち悪ぃ声出してんじゃねぇよ」

「アンタのせいだろうが…」

「何陽嗣のいいようにやられてんだよ?何故抵抗しない?」

「しましたよ。でも陽嗣先輩がでかいから押し返せなくて…」

「ハッ、でかいこと言う割には案外潔いな」



ムッ。



「……元はと言えばアンタと陽嗣先輩が喧嘩するからだろうが」

「テメーがそんな無防備だからエロガッパが調子乗るんだよ」

「今度は俺のせいですか」

「事実だバカ」

「誰がバカだ。てかそんなことアンタには関係ないだろう」

「関係ないだと?俺が何のために…っ」



途端、会長は言葉を詰まらせる。



「……何?」

「………」



しかしその答えは一向に返って来ない。
言い掛けてやめるなよ。


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