歪んだ月が愛しくて1



授業終了のチャイムと同時に一斉に教室中が騒めき立つ。



「あれ、葵どこ行くの?」

「図書室だよ。立夏くんも行く?」

「……因みに何用で?」

「今日やったところを予習しようと思って。早く終われば本も読めるし」

「パス」



宿題ならまだしも予習なんて無理。



「そう言えばずっと思ってたんだけどここってHRとかないの?」

「ないよ」

「え、ないの?」



逆に吃驚。



「うちのクラスだけな。担任が担任なだけに結構いい加減なんだよ」

「紀田ちゃんらしいよな」



確かにあのホスト教師ならやりそう…。



「で、お前こそ生徒会はどうするだ?」

「んー…やっぱり行かなきゃダメ?」

「……別に。いいんじゃねぇの行かなくて」

「え?」



頼稀の意外な返答に思わず聞き返した。
てっきり中立的な答えが返って来ると思ったのだがこれは予想外だ。
頼稀の答えには生徒会に対する嫌悪感が見て取れた。
それは俺の正体を見破られたあの日から時々感じていた。
あえて言葉にして確認したことはないが頼稀の言葉を借りるなら心配されているのかもしれない。



「……過保護」

「は?」

「いやん、怖い顔」

「誤魔化してんじゃねぇよ」



頼稀は呆れた様子で前髪を掻き上げる。



誤魔化しているわけじゃない。
ただこの感情を何て呼んだらいいのか分からないのだ。
心配なんて俺には無縁だったから…。



「ダメだよ立夏くん!」



そこに葵の声が割って入る。



「さっき神代会長と約束したでしょう。約束は破っちゃダメ。頼稀くんもそんな無責任なこと言っちゃダメだよ」

「………」



ぶすっとした顔をして顔を背ける頼稀に葵は「約束を破って立夏くんのこと悪く言われたくないでしょう?」と強めの口調で宥める。
希の言うことしか聞かないと思っていた頼稀もそんな葵の言葉に渋々頷いていた。これも意外だ。


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