歪んだ月が愛しくて1
しかし返って来たのは予想とは違う答えだった。
「……楽しいと思ったことはねぇよ」
その表情からは何も読み取れない。
会長は俺から視線を逸らして歩き続ける。
「じゃあ何で喧嘩なんかしてんの?」
「お前どこに目ん玉付けてやがる。俺がいつ自分から喧嘩売った?」
「……売ってない、けど」
「俺はあくまで返り討ちにしただけだ。好きで喧嘩してたわけじゃねぇよ」
「自分の身を守るためってこと?」
「ま、ストレス発散ってのもあるが」
どっちだよ。
「元々喧嘩っ早い自覚はある。だからと言って好きで喧嘩してるわけじゃねぇ。ガキの頃から護身術やら何やら習わされてたせいで自然でこうなったんだよ」
「あ、金持ちだから」
「ここにいる奴等は大抵そうだ。いくら護衛が付いてたって最終的に自分を守れるのは自分だけだからな」
「………」
少し意外だった。
何も考えずに力を振るっているかと思えばちゃんと考えての行動だったらしい。
(俺とは、違う…)
「お前は何で喧嘩するかって聞いたが理由なんて人それぞれだ。一概には言えねぇし他人に干渉する気もねぇよ」
会長はちゃんと分かっていた。
力の使い方も、その副作用も。
「なん、で…―――」
『―――いつもここにいるね』
『あ?』
『そんなに楽しい?喧嘩って』
未だにその答えにはまだ辿り着けない。
「何か言ったか?」
俺が会長だったら…、なんてバカみたいな思考に頭を振った。
「……何でも、ない」
どうにもならないことを考えたって無意味なだけなのに、どうしようもないな俺は…。