歪んだ月が愛しくて1
誰かが言っていた。
ここは治外法権だと。
………誰だっけ?
「……酒、いいんだ」
「そこ気にしちゃう?りっちゃんって意外と小心者?」
「いいんだよ!今日はパーティーなんだから!」
それって関係ある?
「聖学は進学校な上に上流階級が集う場でもありますからね。社交界でのマナーや教養を学ぶために学園内での飲酒を認められているんですよ」
「え、いいんですか?」
マジで?
「但し365日解禁と言うわけではなく学園行事に限りますが」
流石は各界のボンボン共が集まる進学校。
パンピーの俺には到底理解出来ない。
「にしても折り紙なんて何年ぶりよ。肩凝っちまったぜ」
「初心に戻るのはいいことですよ。特に貴方達の場合は」
「……まさかと思うが、その複数形に俺も含まれてるんじゃねぇだろうな?」
「当然じゃん。寧ろ2人以外いないでしょう」
「カッチーン。猿のくせに生意気言いやがって!ガキのテメーには折り紙がお似合いだぜ!一生折ってろよ!」
「そっちこそ少しは折り紙折って幼稚園気分でも満喫したらどうなんだよ?そんでその助平な脳内洗浄して出直して来いエロガッパ!」
「ああん?黙って聞いてりゃ調子乗りやがって…っ」
「陽嗣、喧嘩はやめて下さいね。折角のお祝いの席なんですから」
「何で俺なんだよ!?俺だけに言わねぇで猿にも言えよ!?」
「貴方が手を出さなければ未空は自分から事を荒立てないからですよ」
「さっすが九ちゃん!分かってる!」
「チッ、ただの差別じゃねぇかよ…」
「ガキか」
「あ?誰がガキだって?」
「九澄が猿の肩持ったくれぇで何拗ねてんだよ。ガキじゃあるまいし」
「なっ!?」
「ああ、そう言うことでしたか」
「男の嫉妬は醜いよ」
「テメーだけには言われたくねぇんだよ!!」
適当に腹が膨れた頃、4人はまた騒ぎ出した。
そんな彼等を横目にグラスを傾けた。
(どこも一緒だな…)
「り…、…ん…」
どいつもコイツも酒が入るといつも以上に喧しくなる。
元々進んで酒を飲む方じゃなかった俺はその光景をいつも遠目から見つめていた。
アイツ等も、こんな風に煩かったな…。
「…い…、」
瞼を閉じればその光景はいつだってすぐそこにある。
かけがえのない大切なものだった。
何者にも代え難い大切な存在だったのに。
それなのに、それすらも俺は守れなくて…。
「―――おい」
「…え、」
「シカトかコラ。何遍も呼んでんのに無視しやがって」
どうやら呼ばれていたらしい。
……気付かなかった。
久しぶりで酔ったのかな。
「何?」
そう言って首を傾げると、会長は俺の問いに答えることなく九澄先輩を指差した。どうやら俺に用があったのは九澄先輩のようだ。
「立夏くん、何か悩み事ですか?」
九澄先輩は俺の顔を下から覗き込む。
「悩み?」
はて、何のことやら。
「先程から心ここにあらずでしたよ」
「え、リカ悩み事?何かあったの?俺で良かったら相談に乗るよ!」
「猿に相談したら解決するもんも迷宮入りだろう。俺に話してみなよ」
「どっちもどっちだろうが」
どうやら俺には悩みがあるらしい、が。
『…ごめん、シロ……』
「おい、マジで悩んでんのか?」
……言えない。
「まさか。寧ろあるように見えます?」
「見えねぇな」
「それ失礼だから」
言えるわけがない。