歪んだ月が愛しくて1
「おい」
そんなことを考えていると不意に会長の声がした。
「他人事みてぇな顔してんじゃねぇよ」
しかも喧嘩腰かよ。
「俺がどんな顔したって会長には関係な…、」
そう言い掛けた時、会長は手に持っていたグラスをテーブルの上に置いた。
ガンッと、まるで俺の言葉を遮るかのように。
「お前が覇王と呼ばれようとそうじゃなかろうと、そんなことはどうでもいい」
静まり返る生徒会室。
先程までの喧しいやり取りが嘘のようだ。
「そんな戯言に一々付き合ってやる必要はない。言いたい奴には勝手に言わせて置けばいい」
そう言えば会長が喋る時は大抵静かだ。
きっとこの声を聞いたら自然と身体が反応するんだろう。
「ただ、これだけは忘れるな」
そう思わせる何かが彼にはある。
“王”と呼ばれる由縁が、何か―――。
「お前は生徒会の一員だ」
「、」
弾かれたように視線を上げると金色の髪と室内の照明が相俟って一瞬目が眩んだ。
切れ長の鋭利な黒曜石が真っ直ぐに俺を見つめる。
「それだけは忘れるな」
そして重かった。
彼の言葉がとてつもなく。
「べ、つに、忘れてなんか…」
笑って誤魔化そうと思った。
でも上手く笑えなくて、自分でも分かるくらい目と口の動きがバラバラで。
「つまり仲間って意味ね!」
「遠回し過ぎだろう」
胸が痛かった。
心臓を鷲掴みされたみたいに。
俺が欲しているものを見透かされているかのようで。
「僕達にとって仲間とは守るべき存在です」
守る?
「だから俺は守るよ、リカのこと」
俺が守られる?
昨日今日会ったばかりの彼等に?
「だから沢山話して欲しい。リカのこと、もっともっと知りたいんだ」
奪う側の、この俺が?
……………ダメだ。
「……笑わせんな」
これ以上彼等との距離を縮めてはいけない。
自分で敷いたルールを境界線を守らなくてはいけない。
だって自覚した先に待っているのは、きっと…。
「アンタ達に俺が守れるわけない」
守れないさ。
『…ごめん、シロ……』
守られて堪るか。
もう二度とあんな想いはしたくない。
あれを再び繰り返すくらいなら、俺は―――…。
「上等だ」
その声にハッと我に返る。
顔を上げた先にいたのは挑発的な笑みを浮かべる会長だった。