歪んだ月が愛しくて1



◇◇◇◇◇





王様と転入生が去った後の裏庭は不気味な静けさが漂っていた。
先程まで茜色だった空はすっかり日が沈み時間の流れを感じさせた。
意識を取り戻した男―――GDの岩城(いわき)は驚愕した様子で周囲を見渡した。
そこには自分と一緒に王様に歯向かった仲間が地面に蹲っていた。
負けたのだとすぐに理解した。それも圧倒的な力の差を見せ付けられて。
これまでも何度となく挑んでは破れ、挑んでは破れの繰り返し。
覇王の存在が気に入らない。
自分達にとって不要な人間は簡単に切り捨てる彼等は王の称号を与えられるに相応しくないと、これまで幾度も生徒会に反旗を翻して来た。
でも結局この世は金と地位と名誉が一番で、弱小企業の岩城の力ではピラミッドの頂点に君臨する彼等には歯が立たなかった。



ただ今回はいつもと違った。



「仲間の女が寝取られた」



その大義名分があったからこそ堂々と奇襲を仕掛けることが出来た。



しかしその結果が変わることはなかった。



「おーお、また派手にやられたな」



聞き慣れた声に顔を上げると。



「リ、ダー…」



そこにいたのはGDのリーダー、我孫子劉だった。



「よっ、生きてっか?」

「す、ません…。俺達、また…」

「少しは傷痕残せたか?」

「……い、え」

「何だ、またやられ損かよ」

「、」



岩城はその言葉に俯いた。
自分達の失態のせいでGDの名を穢した。
我孫子と言う存在に泥を塗ってしまったと思い顔を上げられなかった。



「ま、いいけどな。いつものことだし」



しかし我孫子はケロッとした様子で気にも留めていない様子だった。
そんな我孫子の態度がいつも不思議で仕方なかった。



彼は失敗を咎めない。

理不尽な要求をしない。



でもそれは言い方を変えれば―――。



「ただ…」

「っ!?」



刹那、我孫子の手が岩城の顎を鷲掴みする。



「アイツに手上げたのはちょーっとやり過ぎたな」

「ア、イツ…?」

「アイツだよ、アーイーツー」



我孫子が誰を指しているのか分からない。

だってあの場にいたのは王様と…。



「王様と一緒にいただろう、眼鏡のちっこいのが」

「………あ」



『邪魔はそっち』



岩城の脳裏に過ぎったのは凛とした冷たいオーラを纏う眼鏡の少年だった。



「俺もさ、気に入っちゃったわけよ。だから…―――」



途端、我孫子の目付きが変わった。

その瞳は野に住む獣のようにギラギラと光る。



「次俺の許可なく転入生に手出したら………ぶっ殺すよ?」



その瞳はまるで獲物を狙う肉食獣の如く爛々と輝き、手の中にいる小動物から鋭い視線を逸らさなかった。



「返事は?」

「、」



声が出ない。

上手く呼吸が出来ない。



「了解?」



我孫子には岩城が喋れないことは分かっていた。
自身から放たれるオーラが岩城にそうさせていると自覚していたからだ。
岩城は慌てた様子で首を上下に激しく振る。それが岩城の答えだった。



「ならいいけど、二度はねぇからな」

「…っ、………は…い」



時々、分からなくなる。

GDのリーダーであるはずの彼の本質が。



味方なのか。



それとも…―――。


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