歪んだ月が愛しくて1
陽嗣先輩は俺の言葉を遮って強引に俺の隣に座り込んだ。
案の定それに抗議の声を上げたのは未空だった。
「ヨージ!何ちゃっかりリカの隣座ってんだよ!後から来たんだからこっち座れよ!」
「嫌なこった。何が悲しくてお前の隣なんか座んなきゃいけねぇんだよ」
「だったら帰れ!てか違う席行けよな!」
「だからお詫びだって」
「何のだよ!?」
未空は座ったまま俺の身体を引き寄せて後ろから羽交い絞めにする。
それに見て見ぬふりをする頼稀達3人は我関せずと言わんばかりに黙々と食事を続けていた。
ああ、貴重な昼休みが消えていく。
俺だって飯くらいゆっくり食いたいのに。
「おにーさん」
陽嗣先輩は手を上げてウェイターを呼ぶ。
「Cランチとアイスティー。ストレートね」
「畏まりました」
……ここに居座る気満々かよ。めんどくさ。
「で、連絡先は聞けたのかよ?」
その言葉に未空は顔を真っ赤にさせて声を上げた。
「う、うっさい!ヨージには関係ねぇだろう!」
「ふーん…。ま、聞けたんだったらとっととりっちゃんにスマホ返してやれよ、お前が握り潰す前に」
未空は自分の手の中を見る。
そこには若干汗ばんだ俺のスマートフォンがあった。
「あ、ごめんリカ!」
「……壊すなよ」
「だ、大丈夫っ壊してないから!はい、ありがとう!」
未空は俺の手の上にスマートフォンを置いた。
……せめて手汗くらい拭けよ。
「お待たせ致しました」
陽嗣先輩が注文した食事がテーブルの上に置かれると陽嗣先輩が真っ先に手を伸ばしたのはアイスティーの入った細長いグラスだった。
「ああ、腹減った」
「食ったら早く帰れよな。ヨージがいると外野が煩ぇんだから」
「へいへい」
未空の言葉に意外にもすんなりと従う陽嗣先輩。
その様子からしてどうやら本当に食事しに来ただけらしい。
大人しくしてくれるならこれ以上追求することはない。これで俺もゆっくり食事が出来る。
でも俺は忘れていた。
この平穏な空間に閉じ込められて危機管理能力が薄れてしまったらしい。
火種は、すぐそこに。