歪んだ月が愛しくて1
「ハッ、悔しかったらお前もやりゃいいだろうが!俺に八つ当たりしてんじゃねぇよ!」
「八つ当たりじゃねぇよ!正当な報いだ!」
「報いだぁ?」
「俺のリカに手出したんだから当然だろう!九ちゃんに言い付けてやるからな!」
「なっ、何でそこでアイツが出て来んだよ!?」
「ヨージの浮気者!不潔!」
「煩ぇ!絶対アイツには言うなよ!死んでも言うなよ!」
「嫌だね!精々九ちゃんに怒られればいいんだ!」
「テメー…っ」
うっさ。
相変わらず未空と陽嗣先輩が揃うと耳が痛い。
まあ、お陰でさっきまでの羞恥心が薄らいでくれたけど。
色ボケ猿共の鳴き声なんて気にならない。
ああ、何かこの空気に慣れつつある自分が嫌だな。
そんなことを考えていた矢先、ガッシャーンとガラスの割れる音がこの場を支配した。
その音に視線を合わせるとどうやら頼稀が手に持っていたグラスをテーブルに叩き付けたようだった。
「……煩ぇんだよ」
あ、怒ってる。
シーンと静まり返る食堂内。
生徒達だけでなくウェイターの人達までもがその場から動けず固まっていた。
「立夏」
不意に名前を呼ばれた。
頼稀は俺の返事を待たずに傍まで歩いて来た。
「……何?」
「行くぞ」
そう言って頼稀は強引に俺の手を引いて歩き出した。
「あ、リカ待ってよ!俺も…「来るな」
頼稀は俺の後について来る未空を強い口調で制止した。
その声に未空はピタッと動きを止めた。
「ついて来るならそれをどうにかしてからにしろ」
スッと、頼稀の冷たい視線が陽嗣先輩に向けられる。
その視線に気付いた陽嗣先輩は尚もヘラヘラと笑って頼稀を挑発した。
「それまで立夏に近付くな」
その言葉を最後に頼稀は俺の手を引いて食堂を出た。
俺も特に抵抗することもなく大人しく頼稀に着いて行くことにした。
「何で…」
この時、俺は気付いていなかった。
恨めしげな口調で俺を見つめる鋭い視線があったことに。