歪んだ月が愛しくて1
陽嗣Side
「びっ、くりした…。頼稀くんがあんなに怒るなんて珍しいね」
「ご機嫌斜めだねぇ、アイツ」
「拉致られた…。俺のリカなのに…」
食堂に残された俺以外の3人はりっちゃん達の後ろ姿を目で追いながら口々に声を漏らした。
そんな会話をアイスティーに口を付けながら聞き流していた。
「ヨージのせいだからな」
俺を責める未空の視線を感じながら見当違いなことを質問した。
「……あれ、お前の友達か?」
「あれ?」
「今りっちゃんを連れて行った奴。お前の数少ない友達の1人かって聞いてんだよ」
「数少ないは余計だよ」
「前にそう言ってたじゃねぇか」
「例えだよ!例え!」
ムキになってまあ…。
相変わらず未空はガキで扱い易いな。
「で、あれの名前は?」
「頼稀だよ。風魔頼稀」
「風魔…」
ああ、あの風魔か。
通りで俺にガン飛ばして来るわけだ。
「……何、知ってるの?」
「いんや。ぜーん然知らねぇ奴」
「じゃあ気になるの?頼稀のこと」
風魔頼稀と会ったのはこれで二度目だ。
初めて会った時も食堂で今日と同じように我が物顔でりっちゃんの傍にいたのを覚えている。
しかも俺や未空がりっちゃんに構う度に遠慮なしに殺気をぶっ放して来た怖いもの知らずだ。
流石は“B2”の幹部を張るだけはある。ありゃ間違いなく尊と九澄にも目付けられてんな。
「どうなんだよ?」
気になるかって?
愚問だね。
「ちょー気になんよ」
当然だろう。
この俺に殺気かまして来た奴だぜ。
気になるなって言う方が無理な話だろう。
それにあの“風魔”がりっちゃんのナイト気取りしてんのも気になる…。
「アイツ…風魔だっけ?面と向かって会ったのはこの間が初めてだったけど“風魔”の名前はこっちの世界では結構有名でよ。どんな野郎なのかずっと気になってたわけ」
まあ、未空はまだ知らねぇか。
表の名前をちゃんと受け継いだわけじゃねぇし、本人もそれは本意じゃねぇだろうしな。
「つーか、お前だって気になってんだろう?」
「気になるって、何が…?」
「りっちゃんと風魔のこと」
「、」
図星か。
分かり易い奴め。
俺はあえて他の2人にも聞こえるように声を出した。
「風魔が族に入ってるのは知ってるよな?」
「……“B2”だろう」
「そう。東日本三大勢力の一つ」
「だからそれが何なんだよ?勿体振ってんじゃねぇよ」
「可笑しいだろう。何でそんな奴がりっちゃんに構うのか」
「それは友達だから何か理由があるんじゃ…」
「ただの転入生のりっちゃんを?」
ただの転入生…、なんて白々しいか。
ただの転入生がここに転入して来るはずがない。
だからこそ俺は気になっていた。
「俺にはあの2人にしか分からない何かがあるとしか思えねぇんだわ」
「………」
ただの転入生のりっちゃんと、“B2”の幹部である風魔。
まるで詮索しろと言わんばかりの組み合わせに好奇心が擽られる。
神秘のベールで包まれた彼等の秘密。
暴きたくなるのが男の性ってね。