歪んだ月が愛しくて1



「それから困ったことがあればいつでも俺のところに来ればいい。力にはなってやれるはずだ」

「……何で?」

「文月に頼まれてるから」

「遠慮しときます」

「と言うのは建前だ。アイツの頼みじゃなくてもお前のことなら特別に面倒見てやるよ」

「……何で?先生にそこまでしてもらう義理ないんだけど」

「強いて言うなら気に入ったからかな」

「気に入った?誰を?」

「お前しかいねぇだろう」

「………何で?」

「疑り深いねぇ。警戒心剥き出しって感じだな」

「初対面の人間を信用しろって?」



無理だな。

俺はそこまでバカじゃない。



「まあ、誰彼構わず尻尾振るよりは利口だな」

「俺は犬じゃない」



初対面のくせに失礼な奴。



「犬なんて思っちゃいねぇよ。寧ろ猫?」

「猫でもねぇよ」



マジで失礼。

正真正銘文月さんの友達だな。



「……フッ、いいねお前」



笑ってる。

いや、嗤ってるのか。



ぞわっと、全身に寒気が駆け上がる。



「……何?」



この感じ、久しぶりだな。



眠っていたものが疼く。

まだ起きてくれるなよ。



「……いや、ただお前を見てると文月が執着するのも分かる気がしてな」

「文月さんが執着?何に?」

「は?」

「だから何に文月さんが執着してんの?あの人って結構淡白な方だと思ってたけど」



まあ、本来の性格のせいで粘着質ではあると思うが。



「……お前、それマジで言ってんのか?」

「マジだけど」



とは言ったものの言うほど興味はない。
文月さんが誰に執着していようが俺には関係のないことだ。



「はぁ…」



紀田先生は呆れたように溜息を吐いた。



「あのさ、俺に文月さんのことを知ったように話されても分からないから。俺は先生と違って文月さんと仲良くないし」



寧ろ嫌いだし。



「へぇ…、じゃあアイツの片想いか」



紀田先生の小さな呟きが耳に届く。
でも俺はそれを無視して紀田先生を急かす。



「……どうでもいいけど早く行きませんか。時間の無駄」

「待てよ。お前に忠告して置きたいことがある」



まだあんのかい。


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