歪んだ月が愛しくて1
白樺に連れて来られたのは以前哀さんに案内してもらった時に一度だけ行ったことのある東棟だった。
ここが覇王親衛隊の根城…、と思いきや人目が付かないようにその裏側まで連れて来られるとそこには白樺を慕う複数の取り巻き達が集まっていた。
「お疲れ様です、白樺さん」
「ああ、待たせたね」
白樺に尻尾振るところを見ると彼等も覇王親衛隊のメンバーなのだろう。
「単刀直入に言うけど、お前邪魔なんだよ」
取り巻きの1人がそう吐き捨てたと同時に誰かが俺の肩を壁に叩き付けた。
他の取り巻きは白樺の身体を隠すように前へ出て俺を中心に半円を描く。
「転入生のくせに生意気なんだよ!」
「お前自分の立場分かってんのか?」
彼等からヒシヒシと伝わる、敵意と悪意。
こう言うのは初めてじゃないがまさか山奥に来てまでこんな漫画みたいなベタな展開になるとは思ってもみなかった。
「どこが話し合いだよ…」
リンチ寸前じゃん。
「あ?何?」
「聞こえねぇんだよ!」
「はっきり喋れよ!」
ギャーギャーとでかい声を出せばいいと思ってる辺りが素人だな。それでビビる方が難しいわ。
「君さ、僕達に呼び出されてるのに随分と余裕だね」
恐怖に震え上がり助けを乞う姿を想像していたのか、取り巻き達は平然とした表情で罵詈雑言を受け流す俺を見て面白いくらいに表情を歪ませていた。
「何?ビビって欲しいの?」
「、」
「テメッ、ふざけんなよ!」
「調子乗ってられるのも今の内だぞ!」
おっと、こんなことして遊んでいる場合じゃなかった。
適当にビビったフリして早く戻らないと。
どうせ俺を痛め付ければ気が済むんだろう。だったら気が済むまでどうぞ。
こっちは未空が騒ぎ出す前に戻らないといけないんだよ。
とは言え後ろは壁で前には親衛隊がいるせいで身動きが取れないのが現状だった。こんな至近距離ではビビったフリも難しい。
「白樺さんからも何か言って下さいよ!」
その言葉に白樺が腕を組みながら顔を出す。
「藤岡くんさ…」
白樺はニコニコしながら顔を近付けて来る。でも目の奥が笑っていない。
笑顔を作っていれば俺が油断すると思ったのか、白樺は俺の前に立つなり乱暴に制服の胸倉を掴んだ。