歪んだ月が愛しくて1



「大人しくしてないと痛い目見るよ」

「くれぐれも調子に乗らないことだね。その方がお前のためなんだから」

「さもないと二度と表を歩けないようになっちゃうよ?」



白樺に便乗してまたもや子犬共が喚く。
やれるもんならやってみろよ、とは言わないが言われっ放しも何か癪だな。
いや、でもそれだと適当にビビったフリしてコイツ等の征服欲を満たしてやろうって言う計画が大分変わって来るか…。



「ねぇ、何とか言ったらどうなの?」

「それともビビっちゃった?」

「見た目通りチキンなの?キッモ」

「ガリ勉のキモオタクの分際でしゃしゃり出るからこうなるんだよ」



……言ってくれんじゃねぇか。

誰がチキンオタクだこの野郎。



「少なくとも集団でこんなことをしてるお前等よりはチキンじゃねぇよ……………あ」



ヤベ、つい心の声が。



「なっ!?」

「お前っ、こっちが下手に出りゃ付け上がりやがって!」

「白樺さん!もうコイツやっちゃっていいですか!?」

「……少しくらい痛い目見ないと分からないみたいだね」



チラッと、白樺は取り巻き達に目配せする。
それを合図に数人の取り巻きが俺の背後に回り逃がさんとばかりに両手を拘束した。



抵抗しようと思えば出来るし、逃げようと思えば簡単に逃げられる。



でもそれをしないのは…、



「君が悪いんだよ」



ああ、本当面倒臭ぇな。



同時に白樺の右手が大きく振り上げられた。
退路を絶たれた俺はそんな白樺の右手を暢気に目で追っていた。
殴られるのは構わない。いや、別に痛いのが好きなマゾじゃないけど。
でも一発くらいならもらってやってもいいかなって思ってる。そうすればこっちも反撃し易いし相手の征服欲も満たしてやれるから一石二鳥だろう。



そう思って頬に食らうはずの痛みを覚悟した時だった。















「―――何をしてる」





それは鼓膜を震わす重低音だった。


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