歪んだ月が愛しくて1
尊Side
数分前。
「はぁ?りっちゃんが攫われた?」
血相を変えて生徒会室に入って来るなり息を切らしながら真っ赤な顔で喚く未空の第一声に自然と眉を顰める。
「お前寝惚けてんじゃねぇの?」
「寝惚けてねぇよ!放課後クラスの掃除してたらリカが連れて行かれたんだよ!」
「連れて行かれたって…」
「……誰だ?」
「アイツ等しかいないじゃん!覇王親衛隊だよ!」
ピクッと無意識に反応する。
未空はこの通り奴等に対する嫌悪感を隠そうとしないが、九澄もこの俺でさえも少なからずその単語に何かしらの反応を見せた。
しかし、陽嗣だけは違った。
「それで捜しても見つからなくて泣き付いて来たってわけね」
「違ぇよ!皆で捜した方が効率良いと思ったんだよ!」
「お前が効率って…。直上バカのお猿さんが何言ってんだか」
「煩い!それに元はと言えばヨージのせいだからな!」
「は?何で俺のせいなんだよ?」
「リカを連れて行ったのが白樺だからだよ!」
「あー…」
「……成程。そう言うことでしたか」
「白樺?」
聞き慣れない名前だ。
「2年A組の白樺真冬。覇王親衛隊の幹部で陽嗣専属チームのリーダーです」
「ただのセフレじゃん」
「ち、違ぇよ!それに元を付けろって言ってんだろうが!」
「元かどうかは兎も角、何故彼が立夏くんを連れ出したのですか?いくら覇王親衛隊の幹部だからと言っても何かしらのことがない限り彼等が動くとは思えないのですが」
「「、」」
途端、未空と陽嗣が視線を泳がす。
「……何をした?」
その顔は心当たりがあると言っているようなものだった。
「え、いや、そのー…」
「……ヨージのせいだよ」
ジロッと陽嗣を睨み付ける未空に陽嗣は「げっ」と言葉を漏らした。
「未空、陽嗣のせいとはどう言うことですか?」
「ヨージがリカにキスしたからこんなことになったんだよ!」
「「は?」」
キス…、だと?
陽嗣があの転入生にか?
「しかも態と親衛隊を挑発するみたいに食堂で。それも一般スペースでだよ」
「お前…」
「はぁ、貴方って人は一体何を考えてるんだか…」
九澄はやれやれと言わんばかりに額を手で覆う。
そんな九澄を見て陽嗣は焦った様子で声を荒げて弁明する。
「こっのボケ猿!適当なこと言ってんじゃねぇぞ!」
「口元舐めたらキスしてんのと一緒だろう!実際にしてなくても端から見たらそう見えるんだよ!ヨージが考えなしにあんなことするから白樺が暴走したんだからな!」
「知るか!そんなの白樺に聞けよ!」
「ヨージが聞けよ!セフレなんだから!」
「だから元だっつーの!大体お前も人に責任押し付けてんじゃねぇよ!」
「は?どう言う意味だよ?」
「りっちゃんが親衛隊に目付けられてるのに気付いてたんだろう?だったら何でりっちゃんから目を離したんだよ?狙われてるって気付いてたくせによ!」
「そ、れは…」
「ほれ見ろ、お前だって人のこと言えねぇじゃねぇか」
「……煩い。この絶倫エロ魔人」
「誰がエロ魔人だ!」
毎度のことながら煩ぇな。
コイツ等を見てると無性にぶん殴りたくなる。
その上、俺の胸に巣食う黒いものがそれを更に助長させていた。