歪んだ月が愛しくて1



立夏Side





覇王親衛隊から解放された後、俺は会長の後に続いて生徒会室に向かって歩いていた。



「………」

「………」



……何、この空気。
気まずい。気まず過ぎる。
何でこの人ずっと無言なの?
何か言えよ。何でもいいから喋れよ。
普段から口数が少なくて何を考えているのか分からない人だとは思っていたが、ここまで無言を苦痛に感じたことがあっただろうか。……いや、あったかも。常日頃苦痛かも。
兎に角何か喋らないと窒息死しそうだ。
無言で窒息死って何?意味分かんなくない?……じゃなくてっ!



「あの、さっきはすい…「バカかお前」



途端、会長の暴言が俺の言葉を遮った。
長い足を止めてくるっと振り返り何故か険しい視線を浴びせられた。



「……は?」



バカ?

何か喋れとは思ったよ。思ったけど…。



「何野郎の心配してんだよ。お前自分が何されたか分かってんのか?お人好しにも程があんだろうが」



……ふざけんなよ、おい。



「……バカの次はお人好しですか?アンタが力加減も出来ないバカ力だから仕方なく止めてやったんだよ」

「頼んだ覚えはない。それと力加減が出来ないんじゃなくてあっちが貧弱なだけだ」

「体格差って言葉知ってる?どう見てもあっちの方が小さいんだから貧弱に決まってんじゃん」

「体格差があろうとなかろうと野郎には変わりない」

「そう言うのを屁理屈って言うんだよ」

「正論だバカ」

「誰がバカだ!」



この沸々を湧き上がるこの気持ちは何だろうか。

イライラとムカムカが止まらない。



……いや、落ち着け。



喧嘩したって何も解決しない。

兎に角この男にちゃんと分からせないと。



「……白樺、泣いてたよ」

「だから何だよ?」

「やり過ぎってことだよ」

「………」

「無視すんなっ!!」



都合悪くなると無視って子供かお前は!?



「もういい」



会長と話してても埒が明かない。
分かってもらうどころか更にヒートアップしそうだ。
気を取り直して足を進めようと会長の横を通り過ぎた直後「おい」と呼び止められたと同時に腕を掴まれた。



「っ、」



突然の顔面ドアップに驚いて尻餅を付いた。



「痛ってぇ…」



地味に痛くて尻を擦る。
いきなりの顔面アップは止めてくれ。心臓に悪い。



「バカか。何こけてんだよ」



アンタのせいだろうが!!



「……怪我、ねぇか?」

「尻以外はどこも」

「バカ、今のじゃねぇよ。さっきの連中に何かされなかったかって聞いてんだよ」

「………」



………は?



自分の耳を疑った。



「されたのか?」

「………」



どうやら聞き間違いではなかったらしい。
そんなことをぼんやりと考えていると強い視線と低い声が降って来た。



「どうなんだよ?」

「……大丈夫、です」



驚いた。まさか会長がそんなことを気にするなんて思ってもみなかった。
俺の中の会長は血も涙もなくてもっと冷徹な人だと思っていたのにこの間からイメージ変わり過ぎだ。



「そうか」



一瞬、会長の表情が柔らかく見えた。



(あ、そんな顔も出来るんだ…)



さっきまで人のことバカバカ言ってたくせに何なんだこの男は。

二重人格?ドッペルゲンガー?



「……おい、どうした?顔赤いぞ?」

「え、」



反射的に自分の頬に触れるとそこが異常に熱いことに気付いた。



……何で?


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