歪んだ月が愛しくて1
会長の顔が見れない。
「風邪か?」
そんなわけない。
そんなんじゃない。
これは会長があんな顔するからだ。
ドク、ドクと、心臓が煩い。
「おい」
「っ!?」
一向に会長と目を合わせることが出来なくて俯いたままの俺を不審に思った会長の大きな手が俺の額を覆って熱を測る。
ひんやりとした手に少しだけビクッとした。
動揺を隠せない俺の灰色の瞳と会長の黒曜石がぶつかる。
「か、風邪じゃねぇよ!」
「みてぇだな。熱はねぇし」
ひんやりとした手が心地良い。
でも今はそれが余計に心を騒つかせる。
「分かったなら離せよ!」
そのくせその心地良さを失いたくないとも思っている。
そんな自分に反吐が出る。
「じゃあ何で顔が赤いんだよ?」
……ああ、早く。
顔の熱も、心臓の音も、早く収まれ。
「……知らない」
羞恥心から会長の手を振り払い一定の距離を取る。
そればかりか目を合わせることすら出来なかった。情けない。
「お前…」
早く、早く。
この音が外に漏れる前に、こんな情けない顔を晒す前に。
「その瞳…、眼鏡のせいで気付かなかったが珍しい色だな」
「っ、」
何気ないその一言に頬の熱が一瞬で引いていく。
同時に突き付けられた現実に目眩がする。
―――“化け物”
その反面、心臓の鼓動が早さを増す。
「……そ、れが、何?別にハーフとかじゃないから。そう言う会長の髪だって…」
「髪?」
「金髪なのに全然傷んでないね」
「そりゃ地毛だからな」
「地毛?」
「母親がフランス人なんだよ」
「……ハーフ?」
「だからそう言ってんだろう」
いや、言ってねぇよ。
初耳だわ。
「会長はお母さん似?」
「髪はな」
「顔は?」
「さあな。どっちかには似てんだろうよ」
「ふーん…」
どちらにせよ美形なんだろうな。
片方だけの遺伝子じゃここまで整わないと思うし。……多分。
「おい、何勝手に納得してんだよ」
「会長が無駄に顔が良い理由が分かった気がする」
「無駄は余計だ」
ぶっきらぼうな口調に、全くと言っていいほど愛想のない態度。
でもその視線は先程までの険しいものではなかった。
心臓が痛い感覚も気付けば消えていた。