歪んだ月が愛しくて1
陽の光が反射してキラキラと光り輝く金糸にそっと手を伸ばす。
「いいな…」
でもその光に触れることは出来なくて。
そんな俺を見て会長は少し驚いたように目を丸くさせた。
『―――交通事故ですって』
『相手の信号無視が原因らしいわよ』
『お嬢様も子供が熱出したせいで焦ってたのよ』
『子供?』
『ほら、どっかで拾って来たって言う例の…』
『ああ、例の“化け物”か』
「……俺とは、大違い」
自然と乾いた笑みを漏らす。
そんな俺を黒曜石だけが映していた。
「だからそんな似合われねぇ伊達眼鏡掛けてんのか?」
「っ、何で…」
「これだけ近くで見れば誰でも分かる」
「……そう思うなら離れてよ。それにこの眼鏡は俺の顔があまりにも不細工だから少しでもマシになるように掛けてるだけ」
「は?不細工?お前が…?」
「そうだよ。何度も言わせないで下さいよ、悲しくなるから」
「……誰かにそう言われたのか?」
「え、まあ…、そうですね。人伝にですけどお前は見るに堪えない顔してるから眼鏡して隠せって言われて」
「成程な…」
「成程って何?てかいい加減本当離れて。自分の顔の良さをちゃんと自覚してる?その距離感どうにかした方がいいよ」
「何でだよ?」
「何でもだよ」
何でだと?そんなの落ち着かないからに決まってんだろうが。
自分の顔の良さを自覚してな……いや、してないはずないか。何たって覇王サマだしな。
珍しいものや美しいものを見て目が幸せだと感じることを眼福とか目の保養とか言うが、俺にとって会長の顔は「目に毒」と言った方が正しかった。
まあ、俺のことはどうでもいいとして問題は会長だ。自分の顔の良さを自覚してるなら何でやたらと顔近付けて来んだ?その無駄に綺麗な顔を自慢したいのか?
そもそも離れろって言ってんだから素直に離れろよな。未空達ならまだしも他人の俺にその距離感はどうかしてるんじゃないのか。
『だってリカは仲間でしょう。リカが何かに苦しんでるなら助けたいって思うのが普通だよ』
生徒会には入った。
でもそれだけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
(“仲間”なんて、とんでもない…)
ギュッと、固く閉じた瞼をゆっくりと上げる。
そこには無駄に綺麗な顔が先程よりも近い距離にあって驚いた。
しかも妙に妖艶な笑みが口元に描かれている。
……何?気味が悪い。
目を見開いて硬直する俺に会長はより顔を近付けて来る。
「お前、案外分かり易い奴だな」
「っ!?」
耳元で喋るなぁあああ!!
顔だけじゃなくて声までイケメンかよコイツっ!!
喉の奥でくつりと笑う、会長。
その漆黒の瞳が妖しく輝いて見えた。……冗談じゃない。
スッと、徐にその切れ長の目が細められた。
「そんなにこの顔が気に入ったか?」
「………は?」
ちょっと待て。意味が分からない。
突然のことに上手く反応出来ない。
とりあえず「アホ面…」とか抜かしてる会長は一旦放置して頭の中を整理しよう。
この顔が気に入ったか、だと?
この顔って…、その顔のことですか?
「は?」
「同じ言葉しか言えねぇのかお前は」
すると痺れを切らした会長が更に端正な顔を近付けて来た。
「っ、……だから、近いんだよ!距離感バグってんだろうアンタ!?」
「目が悪いんだよ」
「絶対嘘だろうそれ!息吸うように嘘吐いてんじゃねぇよ!」
「それを言うなら“息を吐くように”だバカ」
「言葉の綾だよ!アンタが変なこと言うから間違えただけ!」
ペチペチと込み上げる何かを誤魔化すように会長の腕を叩く。
そんな俺を不満げに見つめて黒曜石が「変なことね…」とボソッと呟いた。
居心地の悪い視線が俺を見下ろす。
「……てか、俺で遊ぶのやめろよな」
「遊ばれるお前が悪い」
「何でだよ!?」
「ナンデダローナー」
「棒読みやめろ!うぜー!」