歪んだ月が愛しくて1
「―――で?何で毎回毎回アンタと手繋いで歩かないといけないわけ?」
「不満か?」
「不満しかないわ」
この顔が喜んでるように見えるのか?
だとしたら会長こそ眼鏡掛けた方がいいよ。若しくはレーシックをオススメするよ、俺はやったことないけどね。
「お前、アイツのことどうしたい?」
「これについてはスルーかよ」
脈略って言葉知ってる?
手を離せって言ってんのに…、本当人の話聞かねぇな。
「アイツって?」
「白樺」
「……白樺が何?どうしたいって何が聞きたいの?」
「アイツの処分を決めるのに一応当事者の意見を聞いておこうと思ってな」
「処分?」
………まさか。
「……俺を、殴ろうとしたから?」
「他に何がある」
しれっと、会長は「夕飯何食べる?」的なノリで平然と言って退けた。
そこには何とも言えない温度差があった。
「因みに処分の内容は?」
「退学」
「……は?」
「だから退学」
何さらっと言ってんの、この人!?
「そんな大袈裟なっ、」
「大袈裟?」
「どう考えても大袈裟だろう!実際殴られたわけじゃねぇし、怪我だってしてないのに何もそこまでしなくても!」
「自覚があるか知らねぇがお前は既に生徒会の一員だ。誰であろうと生徒会に刃向う者には罰を。それが俺のルールだ」
「何がルールだ!この横暴!」
「何とでも言え」
俺が必死で説得しても会長は全く聞く耳を持たない。
それどころか会長は俺の話を無視して先を歩こうとする。
そうはさせるか。
絶対に退学なんかにさせない。
……いや、しないで欲しい。
「待って!」
そう思ったら勝手に身体が動いて気付けば会長の腕を掴んでいた。
「会長には分からねぇのかよ、白樺の気持ちが!白樺は、あの人は多分…」
白樺は陽嗣先輩のことが好きなんだ。
親衛隊の幹部を張るくらいだから相当入れ込んでいるんだろうし、誰かを想い続けることが簡単なことじゃないことを俺は知っている。
「……俺には分かるよ、白樺の気持ちが。想っても想っても報われない…、そんな気持ちを時には感情に任せてぶつけたくなる時だってあるんだよ」
「………」
本当は、白樺が羨ましかったんだ。
そして悔しかった。
俺が貫けなかったあの人への想いを真っ直ぐに貫こうとする白樺のことが。
「理屈じゃないんだよ…」
好きなら何をやってもいいわけじゃない。
でも人間誰しも常に正しく生きられるとは限らないから頭では分かっていても実際目の当たりにしたら自分でも予測不能な行動を取ってしまう時だってある。
だから責められない。白樺の気持ちを否定したくない。
「お前にも…」
不意に頭上から会長の声が降って来た。
「お前にもいるのか?そんな奴が」
「え、」
いつもは横暴な声色が弱々しい。
不思議に思って顔を上げると、そこにいたのは間違いなく会長なのにその表情は初めて見るものだった。
……分からない。
何でそんな悲しそうな顔してるのか。
さっきはあんな優しげに微笑んでいたのに、何で…、
「言えよ」
何でこんなにも胸が痛いんだろう。