歪んだ月が愛しくて1
「答えろ」
……言えない。言えるわけがない。
一度口に出してしまったら折角蓋をしたものがまた溢れ出て来てしまう。
何のためにここに来たのかを思い出せ。
「……それとも答えられない事情でもあるのか?」
「それ、は…」
でもこんな俺にもいたんだ。
誰よりも大切で大好きな人が…。
胸を張って言えるものじゃないけど確かに俺はその存在に救われていたんだ。
「リカっ!!」
その時、すぐ近くで俺を呼ぶ声が聞こえたと同時に何かが俺の腰に直撃した。
会長に気を取られていたせいで背後から近付いて来る足音に気付かなかった俺は崩れそうになる身体を何とか踏ん張った。
俺を「リカ」と呼ぶ人間は1人しかいない。この抱き付き魔め。
「未空…、腰にタックルするのは危険だからせめて…「そんなことより!スゲー心配したんだよ!今までどこにいたの!?大丈夫だった!?白樺に何もされなかった!?」
いきなりの質問攻め。
しかも態とか知らないが体重を乗せて来てるから地味に重い。
でも未空の焦ったような必死な表情を見たら振り払うことが出来ず何だか動けなくなって暫く未空の好きなようにさせてやることにした。
「見たところ怪我はなさそうだけど…」
「ないよ」
……うん、やっぱり重い。
「良かった、リカに怪我がなくて!俺ずっと心配してたんだよ!」
「はいはい」
心配してくれなんて頼んだ覚えはない。
でもその言葉を飲み込んだのは…、
「お帰り、リカ!」
「……ただいま」
この笑顔のせい…。
ポンポンと未空の背中を軽く叩いてこのむず痒い感情を誤魔化した。
(慣れないな、こう言うの…)
「もう子供扱いしないでよ!こんなことされても誤魔化されないからね!」
「でも未空って子供じゃん、よしよし」
「あやすなぁ〜!俺はリカのことが心配だったの!ずっと捜してたんだからね!本当に大丈夫なの!?」
「だから平気だって。白樺にはただ…、」
不意に先程のやり取りが脳裏に浮かぶ。
俺が今ここで「白樺に呼び出されて身に覚えのないイチャモン付けられた」とか言ったら確実にさっきの二の舞だ。何のために会長と言い合ったか分かったものじゃない。
「ただ、何?」
会長は退学とか簡単に言っていたが、未空に余計な心配掛けたくないし大事にもして欲しくないし……よし、ここは黙っておこう。
「白樺…、先輩とは何もないよ。ただ世間話をちょっと…」
「世間話?どんな?」
「あー…確かあれだよあれ」
「あれって?」
……ヤバイ。何も思い付かない。
「あれあれ。あれはー…」
「部活の勧誘だ」
そんな時、会長が俺の言葉を遮った。