歪んだ月が愛しくて1
尊Side
「白樺のことだが…」
「彼の資料でしたらこちらに。それとこれが覇王親衛隊への警告文です」
九澄から白樺の資料と警告文を受け取りざっと目を通す。
相変わらず仕事が早い。
「さっすが九澄様、手が早いことで」
「人聞きの悪いこと言わないで下さい。それに本来ならこれは貴方の役目なんですからね」
「へいへい、悪ぅございました」
「全く毎回毎回セフレの後始末くらい自分でして欲しいものですね」
「だから元を付け…っ」
「九澄」
態と陽嗣の言葉を遮って九澄の名前を呼ぶ。
「黙らせて来い」
そう言って警告文だけを九澄に突き返した。
「分かってます。これ以上彼等の好きにはさせませんよ」
そう言い残して九澄は警告文を持って生徒会室を後にした。
恐らくあの警告文を掲示板にでも張り出すつもりなんだろう。藤岡に見つかる前に回収するように言って置くか。
(アイツ、気にしそうだからな…)
ふと暢気にソファーで寛ぐ陽嗣が視界に入る。
事の重大性を全く理解していないのかブツブツと文句を言っていた。
……俺が気付いてねぇとでも思ったか。
「ったく、どいつもコイツも俺のせいにしやがって…」
「陽嗣」
名前を呼ぶと同時にコーヒーカップをソーサーに置く。
カチャ、とその音がやけに耳に残る。
「な、何だよ…」
途端、陽嗣の背筋がピンと伸びる。
「……分かってるな?」
「な、だよ…、藪から棒に…」
余計なことは言わない。
建前も詭弁もなしだ。
「テメーで蒔いた火種はテメーで処理しろ」
「っ!?」
ゴクンと、息を飲む音。
その一言で陽嗣は全て理解したはずだ。
「それが出来ねぇようなら人形遊びはやめろ」
陽嗣は見た目に寄らず結構ガキだがバカじゃない。
ここまで言えば分かるだろう。
「アイツはテメーの玩具じゃねぇんだよ」
認めたくないならそれでいい。
だが予感がする。
俺等に対して怯えも媚びも一切ない希少種に近い存在。
そんなアイツと顔を合わせる度に自分の中で得体の知れない何かが沸々と沸き上がる。
喧嘩の前のそれに近い感覚。
高揚感、期待感、どう言い表せばいいのか分からないがアイツの存在が自分と言う人間を刺激するのは間違いなかった。
既に未空は懐柔されあの九澄でさえ興味を持ち始めている。
それが面白くないって気持ちは分からなくもないが、……気付いてるか?その感情を抱いてる時点でお前も俺等と同類ってことに。
だから分かる。
俺等にとってアイツが…、藤岡立夏と言う人間がどれほど大切な存在となるか。
そんな不確かなものに身を委ねるのも偶には悪くない。
「だから面白くねぇんだよ…っ」