歪んだ月が愛しくて1
『…ごめん、シロ……』
「、」
その顔…、あの時と同じだ。
また謝らせてしまった。
俺のせいで…、俺がアイツのことちゃんと守ってやれなかったから。
「ご、めん」
「な、何でリカが謝るんだよ!?悪いのは俺の方なのにっ!」
「……違うよ」
だって未空にそんな顔をさせているのは俺なんだろう?
だったら謝るべきなのは俺だ。未空じゃない。
ましてやアイツが…、俺なんかに謝る必要はなかったのに。
「白樺のことは黙っててごめん。確かに部活の勧誘ってのは嘘だけど殴られたとかそう言うのはなかったし、皆に余計な迷惑掛けるだけだと思ったから言わなかった」
「また迷惑って…、リカのことを迷惑なんて思ったことは一度もないよ!」
「ごめん…」
そう言うと未空は「だから謝らないでよ!」と少し怒っているように見えた。
「……このこと、尊は知ってんの?」
「うん。会長には見られたから誤魔化せなくて」
「誤魔化す必要なんてないよ。あんな奴等すぐにでもここから追い出してやるっ!」
「それはやめて」
すると未空は弾かれたように目を丸くした。
「な、何で…?だって白樺はリカを危険な目に合わせたんじゃないの?だったら俺は白樺を許さないよ!尊に言って白樺のこと退学に…っ」
段々とヒートアップする未空の言葉を遮るかのように少し汗ばんだ両手をぎゅっと握る。
「退学なんて、簡単に言わないで」
「え…」
その言葉に未空はキョトンとした顔を見せる。
俺が何を言いたいのか分からないって顔だな。
『あははっ、でも仕方ないんだ。そう言われても仕方ないことを俺達はやって来たんだから』
あの時、未空は寂しそうに笑った。
あの言葉の意味が何となく分かった気がした。
「退学なんて大袈裟だよ。俺は本当に大丈夫だから」
「でもっ」
「それに怪我したならまだしも呼び出されただけで退学なんて重過ぎる。俺はこの通りピンピンしてんだからさ」
未空の空色の瞳を覗き込みながら安心させたい一心でそう言った。
「でもまた同じことがあってからじゃ遅いよ。リカに何かあったら、俺…」
「じゃあその時は未空を呼ぶよ」
「え?」
その時が来るかは分からないが生徒会にいる以上また同じことがないとは限らない。
……いや、あの人が俺を敵視している限り親衛隊が大人しくなることはないだろう。
ただそれは俺とあの人の問題であって未空が気に病む必要はない。
だからあの人のことを未空に話すつもりはないし会長にも言わない。
他人に迷惑を掛けてまでここに留まるつもりはない。
そんなの、俺が許せない。
「それなら未空も安心だろう」
気付けばそこは俺の部屋の前だった。いつの間に着いたんだろう。
そんなことを考えていると不意に未空に名前を呼ばれて振り返った。
「リカ」
「ん?なー…」
何…と口を開き掛けた時にはもう未空の顔が間近にあって、やっぱり綺麗な空色だと思ったら唇の端にちゅっと吸い付かれた。
「……ごめん、ね」
「………」
最後に見た空色は酷く揺れていて、俺を見てクシャッと笑った。