歪んだ月が愛しくて1



………何、今の。



突然のことに頭が付いていかない。
それなのに唇の端には生暖かい感触が残っていた。



「……やり逃げだ」



未空は謝るだけ謝って早々に自室に戻ってしまった。これをやり逃げと言わずに何と呼ぼう。



「みーちゃった」



背後から聞き覚えのある声がした。
別に無視しても良かったがその声色が何だか憎たらしくてムカついたから振り返ると、そこにはあの日以来ぱったりと姿を見せなくなったGDの我孫子が立っていた。



「よお、久しぶり」



何でこのタイミングで出て来んだよ。



「……ここ、1年のフロアなんだけど」

「細けぇことは気にすんなよ」



恍けやがって。



「いやー、青春だね。いいもん見せてもらったわ」



どうやら先程のやりとりを我孫子に見られていたらしい。
学生棟に入ってからやけに視線を感じると思ったらコイツだったのか。
改めて実感すると一気に羞恥心が蘇って来た。



「……用件は?」

「冷てぇな。俺とお前の仲じゃねぇか」



どんな仲だよ。

丸っ切り赤の他人じゃねぇか。



「てか、お前ってアイツと出来てたわけ?」

「は?」

「だからそう言う関係かって聞いてんの?」

「……くだらない」



そう言って我孫子に背を向けると後ろから手首を掴まれた。



「待てよ」

「……何?」

「そう怒んなって。お前に聞きたいことがあんだよ」

「聞きたいこと?」



我孫子が俺に聞きたいことなんて一つしかない。



「聞いたぜ。生徒会に入ったんだってな」



ああ、やっぱり。

我孫子が俺に用があるとしたらそれしかない。



「無言は肯定と取るぜ」

「勝手にしろよ」



パシッと、我孫子の手を振り払って壁に凭れる。



「あんなに拒否ってたくせにどう言う風の吹き回しだ?」

「アンタには関係ない」

「親衛隊の連中はお前が仙堂を抱き込んだって噂してたぜ」

「本当くだらねぇ連中ばっかだな、ここは…」



この男も含めて。



白樺達もそんなようなことを言っていた。
他人にどう思われようが構わないが俺や未空を巻き込むのはやめて欲しい。


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