歪んだ月が愛しくて1
「それにしてもよく今日が新歓だって知ってたな?」
「あー…昨日聞いた。てか知ってたなら教えろよ」
「お前に伝えんのを忘れてたんだよ」
「どうだか」
「どうでもいいことは記憶から抹消する主義なんで」
「上書きすんな」
後から来た未空と頼稀がウェイターを呼んで朝食を注文する。
未空は俺の隣に座っていつも通りがっつり注文していたが朝食を自室で摂っていた頼稀は希の隣に座ってアイスコーヒーを注文した。
「新歓か…。どうせやるんだったらオニの方がいいよな」
「逃げる側は足が遅いと不利だもんね」
「アオはメチャクチャ足遅いもんな!」
「未空くんが速過ぎるの!」
未空の言葉に葵はプイッと顔を背け俺の肩に顎を乗せてすりすりと甘えるような仕草を見せた。
するとこの光景に未空が声を上げた。
「あー!いくらアオでもそれ以上リカにくっ付いたらダメだかんな!」
「それはこっちの台詞!いっつも未空くんばっか立夏くんを独占してて狡いよ!」
「俺はいいの!」
何がいいのやら。
反論しようと思ったが寝不足のせいで頭が回らない。
「ふぁ」
耐え切れずに欠伸が出た。
「眠いのか?」
「うー…」
目がしょぼしょぼするので擦ると何故か頼稀に目薬を渡された。用意周到なことで。
「昨日あれから何してたの?」
あれからって…、やっぱ分かってて言ってるだろう。
じぃーと探るような視線を送っても未空は悪びれた様子もなく「ん?」と首を傾げた。
昨日のことに一切触れて来ないと言うことはアレそのものをなかったことにするつもりなんだろうか。それはそれで別に構わないけどあの不安げな顔を思い出す度に俺の中でモヤモヤしたものが膨らんでいく。なかったことに出来るだろうか…。
「……何も。頼稀達の部屋で飯ご馳走になって帰って寝た」
「リカ、それは豚の元だよ」
「どうせ太ってるよ」
「立夏くんは全然太ってないよ。寧ろ平均より痩せてるよね?」
「お前も食細ぇからな」
「も?」
「希もあんま食わねぇんだよ。まあ、お前ほどガリじゃねぇけど」
「よりちゃん、それは俺に喧嘩売ってんのかな〜?」
「もっと食えって言ってんだよ」
つんつんと、誰かが俺の脇腹を突く。
誰か…、なんて1人しかいないけど。
「……何?」
くすぐったい。
「確かに痩せてる…」
「で?」
「もっと肉付いてた方が抱き心地良いのに」
「じゃあ抱き付くな」
「無理だよ。こんなにリカが可愛いんだから」
「可愛くねぇよ」
そう言って俺の脇腹を突く未空の手を払おうとした時、逆にその手を掴まれた。
未空は俺の腰を抱いて身体ごとグッと引き寄せる。
「え、」
未空の顔が徐々に迫って来る。
「リカは可愛いよ」
え、何でマジトーン?
てか無駄にイケメンボイス出されても困るんだけど。
押し返そうとしても未空に腕を掴まれているため叶わない。
見た目によらず意外に力あるな……じゃない。
無理。普通に無理なんだけどこの距離。距離感バグり過ぎて頭可笑しくなったんじゃねぇの。
「ねぇ、もう少し近くで見てもいい?」
「は…、ちょ、近い近い…っ」
それ以上近付かれたらシャレになんねぇから!