歪んだ月が愛しくて1



未空Side





大講堂には既に何人もの生徒が列も作らず群がっていて、覇王の登場を今か今かと待ちわびている連中やくだらない雑談で盛り上がっていた。
そんな俺も覇王の一員なので騒がれるのには慣れていた。間違いなく尊達の影響だけど。
生徒会に入った当初は雑音にしか聞こえなかった黄色い声も今となっては空気みたいなものになっていた。
リカもいつかはこれに慣れる日が来ると思う、……多分。



「もうこんなに集まってんだ…」

「新歓は聖学の一大イベントだからね」

「しかも生徒会主催だから皆やる気が違うんだよ」

「へー、生徒会ってそんな人気だったんだ…」

「今更かよ」



不意に後ろを振り返る。
俺より少し身長の低いリカはやっぱり少しだけ歩幅も狭くて、それでも文句を言いながらも俺の手を解かずに大人しく付いて来てくれるリカに安堵した。



『それなら未空も安心だろう』



あの笑顔が忘れられない。



リカは朝からそわそわと落ち着きのない様子だった。
でもね、それはリカだけじゃないんだよ。
本当は分かってるんだ。
目の下に隈を作るほど寝不足なのも、俺に起こされる前に食堂に行ったのも、それが全部俺のせいだってちゃんと気付いてるよ。
でもごめんね。そんなリカを見る度に申し訳なさよりも嬉しさの方が勝っちゃうんだ。

リカが悪いんだよ。
絶対に嫌なことされたはずなのに白樺なんかを庇って、謝らなきゃいけないのは俺の方なのにあんな顔して笑って。
文句を言ってもいいはずなのに、「お前達のせいで巻き込まれたんだ」って責められても可笑しくなかったのに…。でもリカは俺を責めなかった。そればかりか逆に俺を気遣う言動まで見せた。
その姿に思わず抱き締めたくなって、つい身体が先に動いて俺よりも小さくて愛らしいリカに自制心が効かなくなった。まあ、最後の最後で軌道修正したけどさ。
あのまま軌道修正しなかったらどうなってただろう。今以上の俺のこと意識してくれるかな?……いや、それ以前に俺が意識し過ぎてリカの顔見れないかも。



「これって立ち見ならどこで話聞いててもいいの?」

「ああ。人が少ないところに行こうぜ」

「「さんせ〜」」

「リカ、あっちの方空いてるよ!」

「はいはい。引っ張らなくてもちゃんとついて行くよ…」

「立夏くん、こっちの方が近道だからこっちから行こうよ!」

「え、でも未空が…」

「いいから、いいから」

「あ、リカ待って!どこに行くの!?」



考え事していたのがいけなかったのか、不意にリカの手が解かれのんちゃんとアオに連れられて人混みの中へと消えてしまった。


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