歪んだ月が愛しくて1
「男同士の話だ。気にするな」
「それは俺が男じゃないって言いたいわけ?」
「言葉の綾だ」
「……つまり、俺には言えない話ってことね」
「拗ねんなよ」
「拗ねてねぇよ」
そう言ってリカは頼稀から顔を背けた。
リカの灰色の瞳から頼稀が消えただけで無意識に口角が上がる。
そんなリカの姿にさっきまでの感情が静まっていくのが分かる。
それでも先程の頼稀の言葉が頭から離れてくれなかった。
「それより3人共大変だね。希くんと一緒に応援してるから逃げるの頑張ってね」
「他人事だと思って…」
「まさか頼稀までそっちとはな。ドンマイ」
「うっせ…。俺だって好きでなったんじゃねぇよ」
「残念だったね、オニだったら堂々とサボれたのに」
「天罰じゃね?」
「確かに。きっといつもサボってるから罰が当たったんだよ」
「やっぱり頼稀ってそっち派だったんだ」
「宗教みたいに言うな」
……いつも通りの頼稀だ。
皆の前だから気を遣ってるのか。それともリカやのんちゃん達に悟られたくないのか。どっちにしろ今は頼稀に話を合わせるしかない。
『俺にはアイツを守る義務がある。お前とは違ってな』
頃合いを見てあの言葉の意味を聞かないと。
「未空」
「え、な、何っ!?」
「何ボーっとしてんの?体調悪い?」
「いや、そんなことないけど…」
「………」
「リ、リカ、さん…?」
リカは俺の顔を下から覗き込んで顔色を窺う。
そんなに見つめられたら恥ずかしい……じゃなくて、縋ってしまいそうになる。
その不器用な優しさに触れる度に格好悪い自分を曝け出してしまいそうになる。
リカならこんな俺でも受け入れてくれるんじゃないかって…。
「……何か、あった?」
「、」
『―――いらない子なんだから』
「っ、……なーんも!リカと逸れちゃったからちょっと心細かっただけ!」
……ダメだ。
今はまだ蓋を開けちゃいけない。
俺の過去も、それ以外のことも、まだ全てを曝け出すことは出来ない。
リカに問題があるわけじゃない。俺がまだ全てを曝け出す勇気がないんだ。
考えれば考えるほど嫌な方に思考が偏り、ドロドロの感情が溢れて憎悪とか嫌悪とか汚い感情に飲み込まれてしまいそうになる。
(もう、そんなのは嫌だから…)
「……ならいいけど。もうオニごっこ始まるみたいだからバッチ貰いに行こう」
「うん!」
頼稀の視線が気になる。
もうすぐゲームが始めるのにいつまでもこんなんじゃダメだな。
リカを庶務にさせないためにも今はこっちに集中しよう。
今は何としてもリカを守ることを最優先に考えないと。
尊には悪いけど折角こっち側になったんだからとことん逃げて逃げて逃げまくって尊の計画を邪魔してやる。
(俺が守るよ…)
「ん?何か言った?」
「なーんにも!ほら早く行こう!」
今はまだ蓋をして置こう。
いつか本当の自分を曝け出してきつく閉めている蓋に飲み込まれず開けられるようになったら、その時は…―――。
制限時間は正午まで。