歪んだ月が愛しくて1
「なーに?マジでりっちゃんに骨抜きにされちゃったわけ?猿だけじゃなくてお父さんもですか〜?」
「誰がお父さんだ」
そう言って陽嗣の頭を一発殴ると陽嗣は文句を言いながらも携帯用の灰皿を俺に差し出す。
「揃いも揃ってあのヘンテコ眼鏡の素顔を暴きたいってか?悪趣味だねオメー等」
「……お前、アイツの資料を見てないのか?」
「見てねぇよ。別にオメー等と違って大して興味ねぇし“神代”以上におっかねぇもんなんてこの世に存在しねぇからな」
「そいつはどうだろうな…」
「は?何それ?……りっちゃんって何かあんのか?」
「気になるならテメーで調べろ」
ヘンテコ眼鏡の素顔、ね…。
そんなもん端っから知ってるけどな。
俺が藤岡の素顔を知ったのは事前にアイツのデータに目を通していたからだ。
一見藤岡の資料には特に気になる点は見つからなかったが、強いて挙げるなら現理事長である鏡ノ院の甥で、写真でも分かるくらい容姿が整っていること。今現在どう言うつもりであの眼鏡を掛けてるのかは知らないが、どうせならデータ上の写真も書き換えとけばいいものを…、詰めが甘いんだよ。
写真で見た藤岡の印象は希薄。その一言だった。
中性的な綺麗な顔と白い肌、燻った瞳がそう見せていたのかもしれない。
そして藤岡は俺を毛嫌いする鏡ノ院の親族。
他人の過去に興味はないし一々詮索する気もないがその時は何故か酷く興味を唆られた。
気になって調べて見れば藤岡の経歴は穴だらけだった。隠蔽工作もいいところだ。
これも全て鏡ノ院の差し金か。素性の分からない人間をあえて俺の庭に放り込む辺りあの男が裏で糸を引いているのは明白だった。
それに藤岡自身ここまで綺麗に隠すってことは探られたくない何かがあると言うことなんだろうが………やめた。
焦る必要はない。知りたいことは山程あるが本人の口を割らせるのも面白い。そう思って調べる手を止めた。
「何考えてるか知らねぇけど、悪い顔してるぜ?」
「……かもな」
穴だらけの経歴と藤岡本人に会って確信した。
アイツはそう簡単に捕まらない。
本人こそ気付いてないがあれは結構貪欲だ。無欲そうに振る舞っているつもりだろうが全然隠し切れていない。その証拠に時折アイツは物欲しげな目で俺等を見ていた。それもいつも一歩引いたところで。
何を我慢してんのか知らないが無駄に強気で意地っ張りなアイツがそう簡単に白旗を上げるはずがない。
藤岡は逃げ切る。そして必ず俺の前に現れる。それが時間を持て余している理由だった。
「そういや九澄からの伝言。例の物は取り付けたってさ」
「全部にか?」
「多分な。それと色々餌撒いてたみたいだぜ」
「余計なことを…」
まあ、確実に勝つためには無駄なものではないが。
「てかりっちゃんに何かあるなら教えろよな。出し惜しみしてんじゃねぇよ」
「してねぇよ」
残り3時間。
残る懸念は藤岡の体力がどこまで持つかだが…。
「高みの見物といくか」