歪んだ月が愛しくて1
頼稀Side
「―――おい、大丈夫か?」
地面に座り込む未空に手を伸ばしながらそう言った。
「大丈夫じゃないよ!一発やられた!」
「ああ、少し腫れてるな」
未空は頬を擦りながら不満を漏らす。
低い呻き声を出し地べたに這い蹲っている奴等にぺっと血の混じった唾を吐き出した。
(お行儀の悪いことで…)
予想以上の数に時間が掛かった。
最近運動不足だったせいで身体が鈍っていたのかもしれない。それに加えて相手が一般人だったことも要因だろう。
未空がこっちに残ってくれたお陰で無駄に体力消耗しないで済んだな。
「案外やるな」
「え、それ俺に言ってる?」
「ああ。お前本当に喧嘩初めてか?」
「当たり前じゃん。俺喧嘩好きじゃねぇもん」
「そりゃ残念」
「何が残念なんだよ〜」と唇を窄める未空に笑って誤魔化した。
未空くらいの腕があれば蛹の上位には入るだろうに。勿体無いと思いながらも経験を積めばいくらでも伸びそうな未空の可能性に少しだけ怖くなった。
「ねぇ、これどうする?」
未空が指差したのは地べたに這い蹲る、オニ。
(“オニごっこ”なんて悪趣味だな…)
「……取りあえずそこに寝かせとけ。早いところ立夏と合流するぞ」
「そうだね!」
立夏の名前を出した途端、未空の顔にパアッと花が咲く。
(分かり易い奴…)
未空に立夏のことで牽制したのは軽率だったかもしれない。
覇王であることを抜かせば未空ほど立夏のボディーガード役に適任の奴はいないだろう。
それに立夏と未空の生い立ちは少し似ている。
未空なら少しでも立夏を闇の中から救ってくれるかもしれないと考えたこともあった。
でも未空は間違いなく生徒会の人間であの神代財閥の関係者だ。
今後の立夏の生活を考えたら未空や他の覇王と関わるのは立夏のためにならない。
早いうちに手を打って置くべきだと考えた結果だったが…。
立夏が知ったらどんな顔するだろうな。
あの性格だから「余計なことするな」って怒るかもな。
まあ、余計なことだとは思ってねぇけどな。
立夏のためなら何でもしてやる。
お前が苦しんでるならその元凶を排除してやるし、お前が望むなら俺の持てる力を全て使ってでも叶えてやりたい。
あの日、そう誓ったのだ。