歪んだ月が愛しくて1
ふと微かに足音が聞こえる。
その音はあの人のものによく似ていた。
……まさか、
「おや、誰かと思えば…」
「、」
そこに現れたのは俺の主である、九條院暁羽。
彼こそが東日本三大勢力のNo.3“Bloody Butterfly”の第10代目総長だった。
「何で…」
アゲハさんは俺の問いに答えることなく胡散臭い笑みを浮かべている。
いくら俺の主だからと言っても警戒心を解くことはない。
だってこの人は何か明確な目的を持ってこの場に現れたのだから。
待ってましたと言わんばかりの白々しい台詞がその証拠だ。
「アゲハ!」
「やあ、待たせたね」
いや、待ってねぇし。
そう思いながらも口に出すのはやめた。
「何でアゲハがここにいんの?」
「あははっ」
「いや、分かんねぇし…」
「ところで頼稀」
「無視かよ!」
「諦めろ。アゲハさんと会話が成立するのはごく一部の人間だけだ」
するとアゲハさんは俺に向かって無言で手を差し出した。
「ん」
「……何ですか、その手は?」
「決まってるじゃないか」
「まさか…」
嫌な予感がする。
「そのバッチを渡してくれないかい?」
そう来たか。
よりによってアゲハさんが次の刺客とは。
「……誰の入れ知恵ですか?」
「Non!入れ知恵とは失礼な。僕はただHoneyの熱い熱い愛の囁きに絆されてしまってね」
「貴方って人は…」
可笑しいと思った。
どこに逃げてもやたらとしつこい追手と異常なほど立夏に狙いが集中していること。そして俺を確実に仕留めるために仕向けられたアゲハさんの登場。つまりそれは…、
「端っから仕組まれたってことですか」
「おや、何のことだい?」
「今更惚けても遅いですよ」