歪んだ月が愛しくて1
「最悪…」
九澄先輩の発言に愕然とする。
更に追い打ちを掛けるように会長の一言が俺を襲う。
「どうする?もう助けは来ないぞ」
「………」
『助けてよ!』
かつての自分の言葉が蘇る。
助け?
そんなの…、
「……知ってるよ」
初めから助けなんて期待してない。
どんなに叫んでも、どんなに必死で手を伸ばしても、誰もこの手を掴んでくれないことを俺は知っているから…。
あの時だって…―――。
でもあれは失言だったな。
今思い返しても後悔しかない。
(あんなこと言うつもりじゃなかったのに…)
弱い自分はいらない。いらないんだよ。
「……何があった?」
「は?」
「何かあった」じゃなくて「何があった」って何だよ。
何かあった前提で話されても反応に困る。
「別に何もないけど」
会長のせいで思い出してしまった。
無知で無力な過去の自分を。俺がどうしようもなく消し去りたい、弱い自分を。
「……下手クソ」
「だから何が?言いたいことがあるならはっきり言えば?」
「お前、嘘吐くの向いてねぇよ」
「………」
……何だよ、それ。
ああ、本当ムカつく。
見て見ぬふりすればいいものを一々突っ掛かって来んじゃねぇよ。暇人か。
そう言う中途半端なもんが一番嫌いなんだよ。反吐が出る。
「何だよ?」
……いや、やめよう。
反論したって仕方ない。無意味だ。
とりあえずさっさとこのつまらないゲームを終わらせてしまおう。
残り15分間逃げ切ってついでに会長からも逃げ切ろう。
あ、でも15分間逃げ切るためには会長をどうにかしなきゃいけないのか。
会長はこの聖学で生徒会長に抜擢されるほどの人物。常人より運動神経が良いのは目に見えているし、この間もGDの連中を返り討ちにしていたから並の運動神経ではないだろう。体格差を考えても普通なら完全にこっちが不利だ。
(普通なら、ね…)
グッと、足に力を込める。
その状態のまま会長の後ろに視線を向けた。勿論そこには何もない。
会長も怪訝そうな顔をするだけで後ろを向こうともしない。
これが未空や陽嗣先輩なら簡単に振り向いてくれそうなのに会長ってことが憎いな。まあ、こればっかりは仕方ない。
―――とすれば、残る手は一つ。
一瞬でも俺から視線を逸らせればいい。
「あっ!」
突然大声を出した俺に会長は一瞬ビクッと肩を揺らした。
その隙に俺は身体を反転させて一気に地面を蹴り上げた。
卑怯?知るかそんなもん。色んなもん差し引いたらこれでどっこいなんだよ。
そんなことを思いながら一瞬振り返れば会長は呆然とした様子でこちらを見つめていた。
「ざぁこ♡」
俺は小学生並みの捨て台詞を吐いてその場から全速力で逃げ出した。
「………上等じゃねぇか」
まさかそれが会長を煽ってしまう結果になるとは知らずに。