歪んだ月が愛しくて1
「……もう、平気だから」
嘘。本当はまだ少し痛い。
でも偏頭痛みたいなもんだから暫くすれば治る。
「治った?」
「治った」
「んっ!」
未空と目を合わせないように適当に答えた。
それなのに未空は何一つ嫌な顔せずに満足そうに微笑んだ。
(何なんだ、コイツ…)
何がそんなに楽しいわけ?
その笑顔の理由が分からない。
「アピールタイムは終わったか?」
紀田先生の声に顔を上げると何故かクラスメイト全員の視線が集まっていた。
……あ、今授業中だったの忘れてた。
恥ずかしい。
「仙堂、最初に言って置くがコイツはダメだからな」
何が?
「えー、何でダメなの?」
「立夏はお手付き済みなんだよ。それに俺も狙ってるから」
「お手付き?狙ってるって何を?」
命?
「ダメ!リカは俺のなの!紀田ちゃんにはあげないから!」
いやいや、違うから。
そう言うのじゃないから。
「安心してねリカ!紀田ちゃんには指1本触らせないから!」
「お前にも触らせねぇよ」
「俺はいいの!紀田ちゃんは先生なんだから生徒に手出すのはダメ!倫理的にアウト!」
「バレなきゃ良いんだよ」
「良くないよ!」
……どうでもいいが。
「そのリカってやめて」
「何で?」
「女みたいだから」
「でもリカは可愛いよ」
「だから?」
「いいじゃん可愛いからリカで!」
何も良くない。
「まあ、可愛いのは間違いねぇな」
「眼科行けや」
「俺、視力2.0だよ」
「俺もコンタクトしてっから目は良いぞ」
つまり女みたいなあだ名も「可愛い」も訂正してくれないわけね。
勘弁してくれよマジで。
「と言うわけで、お前等全員に忠告して置くが立夏には手出すなよ。俺の首が懸かってるんだからな」
「はーい!それは俺も許しませーん!」
荒らすだけ荒らして紀田先生は何事もなかったかのようにあっさりと教室から出て行った。
その後ろ姿に舌打ちして悪態を吐く。
文月さんの友達だけあって紀田先生は一癖も二癖もある奴だった。
そして俺をリカと呼ぶ仙堂未空もまた…。
『…ごめん、シロ……』
頭の痛みは未だ消えない。