歪んだ月が愛しくて1



立夏Side





「……追って来ない、よな?」



ゲーム終了が目前と迫って来ているにも関わらず案外すんなりと逃がしてくれた会長に違和感を覚える。
自分から喧嘩売って来たくらいだからゲームを諦めたわけじゃないと思うがその真意は分からない。



『どうする?もう助けは来ないぞ』



……会長のせいで嫌なことを思い出した。



『助けてよ!』



そんなこと分かってるよ。

どんなに願っても、祈っても、俺の願いは叶わなかった。



この世には神様なんていない。
神様なんてものは誰かが創った幻想に過ぎない。
もし本当にそんな奴がいたとしたらそいつはただのペテン師だ。全知全能なんかじゃない。
だって本当に神様なんてのがいたら、きっと俺は…。



「ハッ」



もうどうでもいいか。今更そんなもんに囚われていてどうなる。考えるだけ時間の無駄だ。
神様に願うことは何もない。いつだって俺は自分の力で切り開いて来たんだから。



―――本当に?



頭の中で誰かが俺に問い掛ける。

この声、誰だっけ?



「……ほんと、だよ」



俺はいつだって自分の力で…。



キラッと、不意に胸元のバッチが視界に入る。



ゲーム終了まで残り何分だろう。もうそろそろタイムリミットのはずだからそれまでここに隠れてようかな。面倒だし。ああ、でもここは障害物が少ないから危険だな。もし万が一見つかったら持久戦になる。それだけは避けたい。



「よし、逃げよう」



カサカサッと、木々が擦れる音がした。



ああ、そう簡単には見逃してくれないわけね。

そんなでもってやっぱりアンタなんだな。



「……会長」



会いたくなかった。

せめて、今だけは…。



(タイミング悪ぃな…)



ゆっくりと振り返れば、そこには幹に寄り掛かりながら偉そうに腕を組む会長が口角を上げていた。



「よく気付いたな」

「二度も同じ手は食わねぇよ」



ジリジリと、会長が距離を縮めて来る。
それと比例するように俺は後退りながら会長との距離を一定に保っていた。



「………」

「……何?」



会長の視線を感じる。
面と向かって凝視して来ることから隠す気はないようだが。



「……いや、後でいい。時間も押してることだしな」



俺としてはそのまま時間切れでもいいんだが。



「意外と早かったですね。流石は生徒会長様、運動神経も抜群なんですね」



時間稼ぎのために話題を変える。
乗って来ないかなって思ったけど何故か会長は余裕な態度を崩さなかった。



「お前ほどじゃねぇよ。俺が短時間でお前を見つけられたのはそれのお陰だ」

「それ?」



会長は俺の胸に光るバッチを指差した。

 

「そのバッチには発信機が内蔵されている」

「は、発信機っ!?」



と言うことは…、



「どこに逃げたってバレバレじゃん!」

「そう言うことだ」



会長は悪びれる様子もなくさもそれを当たり前のように平然と言って退けた。
そんな会長に怒りを通り越して呆れるしかなかった。



「……王様って正々堂々と勝負するもんなんじゃねぇの?何発信機って?せこくない?」

「生憎俺は白馬の王子様じゃねぇからな」

「差し詰め“悪の王様”ってわけか…」



ニヤリと口角を上げてほくそ笑む、会長。



……何か一気に疲れた。

先程までの傷心もどこかへ行ってしまった。



「勝負は結果が全てだろう」

「ああ、そうですか」



だったらこっちにも考えがある。



「強行突破は好きじゃねぇけど…」



無意味な喧嘩はもうしない。

だからこれは時間稼ぎの攻防戦だ。



「……その構え。お前喧嘩慣れしてるな?」

「さあ?」

「………」



ああ、この目。

やっぱり苦手だ。


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