歪んだ月が愛しくて1
『うーん…今んとこは大丈夫そうだな。言い忘れてたけどゲーム終了10分前から学園のあちこちに設置してるカメラがオニの動きを追ってその様子を大講堂で絶賛公開中だぜ!ファンサービスよろぴくねー!』
公開中って、まさか。
「チッ、余計なことしやがって」
「最悪だ…」
『そゆことだからエロいことはすんなよー』と、その言葉を最後に放送が途絶えた。
最後の一言はよく分からなかったが俺の頭はそれどころではなかった。
何が絶賛公開中だ、ふざけんな。
会長の言葉を借りるならマジで余計なことしてくれたな。
親衛隊に目を付けられてる今こんな映像を流されたらまた変なイチャモン付けられるに決まっている。ついてない。
「余裕そうだな」
「え…っ、」
直後、会長は動いた。
俺は一瞬の隙を突かれ身体ごと木の幹に押し付けられた。
「っ!?」
クッ、油断した。
会長の肘が俺の喉元を押さえ付ける。
「どうやら俺の勝ちみたいだな」
「ハッ、勝手に、決め付けんじゃねぇっ!」
余裕綽々の笑みを浮かべる会長にムッとして腹部に蹴りを一発お見舞いしてやろうするが、俺の攻撃を予測していた会長によって逆に足を取られてしまった。
くき、と反対の足が捻じれた。
……あ、やば。
バランスを崩した俺の身体が横に傾く。
「バカ…っ」
会長は咄嗟に俺の足を離して俺に向けて手を伸ばした。
……ダメだ。捕まる。
そう覚悟して目を瞑った時、頭の中でまたあの声が聞こえて来た。
『―――おいで』
「、」
ヒュッと、一瞬呼吸が止まった。
……何だ、これ。
きもちわるい。
脳裏に過った声に身震いする。
逃げないと。逃げないと。
この手に捕まっちゃいけない。
この手に捕まったら俺はもう二度と…っ、
そう思ったのと同時に会長の手を素早く振り払った。
でも会長は俺の行動を予想していたかのようで振り払った方の手をガシッと掴まれた。
「、」
喉が鳴る。
「逃がすか」
形のいい唇が小さく動いた。
いやだ。いやだ。
『―――おいで』
気持ち悪い。
触るな。俺に触るな。
『 』
もう誰にも捕まりたくないっ!!
「離せっ!!」
「、」
会長の腹に蹴りを入れる。
今度は綺麗に決まり一瞬の隙を突いて会長の腕から逃れて走り出した。
後ろの方で「あの野郎…」と低い声が聞こえたがそれを気にする余裕は俺にはなかった。