歪んだ月が愛しくて1
『立夏くんお疲れ様でした。何やら可笑しな雰囲気になっているようですが寄り道しないで真っ直ぐ帰って来て下さいね』
九澄先輩の声がする。
でも内容が全然耳に入って来なかった。
「大丈夫か?」
「あ、………うん」
それは、きっと会長のせい。
2人分の荒い息が響く。
俺の身体を包む温かい温度に喉の奥がが引き攣る。
後ろから腕を引っ張られた俺は危うく顔面から池にドボンするところだったが、会長の腕の中にすっぽりと収まったお陰でそれは免れた。その衝撃で会長は俺共々地面に尻餅を付いた。
……いや、まあ、助かったんだけどさ。
まさか会長に助けられるとは思ってなかったから後からぶわっと沸き上がる何とも言い難い感情に困惑していた。
「……お前、怪我は?」
「へっ!?」
咄嗟に顔を上げると。
「ぐぇ」
……顔が痛い。
顔を上げようとした瞬間、何故か後頭部を押さえ付けられた。
「足」
「足?」
それがどうしたの?
「捻っただろう」
「、」
ビクッと肩を揺らせば上から溜息が降って来た。
チッ、バレてたのか。
「……大したことない」
「嘘吐け」
「嘘じゃないよ」
本当に大したことじゃない。
別に痛くないしちょっと違和感がある程度だ。
「て、てか、いい加減離せよ。俺勝ったんだから…」
すると会長は驚いたように目を丸くさせて俺を見下ろした。
「……お前、気付いてねぇのか?」
「は?」
何が?
会長は俺の身体を離して立ち上がると俺の手を引っ張って立ち上がらせてくれた。
自由になった俺は会長から少し距離を取ると、会長の手にはキラリと光るバッチが握られていた。
……ん?バッチ?
まさかと思いブレザーの襟元を確認すると。
「……ない」
「やっぱり気付いてなかったのかよ」
「それ、俺の…?」
「他に誰がいる」
「いつから…」
「お前に一発もらったのと同時に」
「……嘘」
「嘘じゃねぇよ」
会長は俺の顔の横に手を付いて顔を近付けた。
そしてムカつくくらい綺麗な顔でこう言った。
「俺の勝ちだな」
……負けた。