歪んだ月が愛しくて1
「確か学生棟に行くには…」
「………なあ、この道であってんの?」
「安心したまえ。僕は君よりも遙かにここの構造を熟知しているんだよ。大船に乗ったつもりでいてくれたまえ」
「泥船の間違いじゃなくて?」
さっきもこの道通った気がするのは俺だけか?
オニごっこが終わって改めて思ったのはここの裏庭は庭じゃない。最早森。いや、樹海だ。
聖学は東都ドーム50個分と言われているが、その大半が森で覆われているんじゃないかと思うくらい見渡す限り緑一色だった。いくら山奥にあるとは言えもう少し人の手を加えてもいいのではないだろうか。全ての木々を伐採しろとは言わないが、どこからどこまでが裏庭なのかをもう少し明確にして欲しい。
ただ奥に進むにつれて背の高い木々は見当たらず、池や小高い丘と言った隠れスポットのような場所もあったので全く手を付けてないわけではないみたいだ。
「ところで誰のブレザーを羽織っているんだい?」
「あ、これは…」
……忘れてた。
通りで身体が温かいわけだ。
「……会長が、貸してくれた」
「神代くんが?何故だい?」
「何故って、………寒かったから?」
「おやおや、駒鳥は意外と寒がりなんだね」
「そう言うわけじゃねぇんだけど…」
それ以外に説明しようがなかった。
自分でもよく分からない。
「汗を掻いたから冷えたんだろうね。部屋に戻ったら着替えた方がいい」
「……うん」
会長にも返さなきゃな。
こう言う時ってクリーニングに出した方がいいんだっけ?
「そういやアゲハが頼稀を捕まえたんだって?」
「そうとも。Honeyに頼まれてしまったからね」
「はにー?」
「九澄くんだよ。彼に君と神代くんを接触させたいから邪魔な頼稀を捕まえて欲しいと頼まれたのさ」
「邪魔って…」
言い方。
自分のとこの幹部じゃん。
「でも何で九澄先輩がはにーなんだよ?」
「それは僕が九澄くんを愛しているからさ」
「へー………はぁ!?」
ア イ シ テ ル ?
「……マジで?」
「おや、頼稀から何も聞いてないのかい?」
「頼稀?別に何も聞いてな、い………あ」
『学園の大半が同性愛者の集まり。簡単に言えば皆ホモかバイなんだよ』
……思い出した。
「そういやそんなことも言ってたかも…」
「ここでは珍しいことじゃないからね」
「それ自分で言うか?」
アゲハは「僕は自分に正直なだけさ」と笑って誤魔化していたからそれ以上の追及するをやめた。
いくらストーカー気質のアゲハにだって聞かれたくないことの一つや二つはあるだろうからな。