歪んだ月が愛しくて1
「てか午後の部もあるんでしょう。何時から?」
「17時に中庭集合だってさ」
「え、もう16時半じゃん」
俺はソファーから立ち上がると床に脱ぎっぱなしのブレザーに袖を通した。
「あれ、何でブレザーが二つもあんの?しかもこっちのリカには大きくない?」
「悪かったな、小さくて」
「そこ反応しちゃう?褒めてるのに」
全然褒められた気がしねぇよ。
「てか、これ尊のじゃん」
未空はブレザーの内ポケットを見て言う。
聖学のブレザーには内ポケットの下にそれぞれの名前がローマ字で刺繍されていた。
「何で尊のがここにあんの?さっきは会ってないって言ってたじゃん」
「オニごっこが終わった後に借りた」
「何で?」
「寒かったから」
「え、リカ寒いの?風邪引いた?大丈夫?」
「大丈夫」
俺は未空から会長のブレザーを受け取りハンガーに掛けてクローゼットの中に仕舞った。
「こう言う時ってクリーニングに出すべき?」
「え、そんなことしなくていいよ。尊のなんだからそのまんま返しちゃいなよ」
そう言って未空は俺の首に腕を回して俺の顔に頬擦りする。
本当未空って抱き付き魔だよな。俺のことをペットかぬいぐるみだと勘違いしてるんじゃないだろうか。………有り得なくは、ないな。
「ねぇ、もう行こうよ。集合時間に間に合わないよ」
「今行くよ。でも何で中庭?」
「午後の部は中庭がスタート地点なんだよ」
「また外か…」
面倒臭い。
「そうだ、リカのくじ引いといたからね」
「くじ?」
「午後の部は肝試しでしょう。そのペア決めのくじ。同じ数字の人とペアだから…、リカは98番の人とペアだね」
「98」と書かれたくじを未空から受け取った。
「未空は?」
「俺は39番!因みにペアはみっちゃん!」
「え、みっちゃんって…、もしかして御手洗くん?」
「うん、そうだよ」
「だ、大丈夫…?」
「何が?」
きょとんと首を傾げて俺を見つめる、未空。
この顔は何も分かってないな…。
「喧嘩はダメだよ?」
「当たり前じゃん!子供じゃないんだからそんなことしないよ!」
「(どうかな…)」
「何かリカって尊みたいだね!」
「会長?」
「うん、尊も似たようなこと言うから」
「ふーん…」
お父さんか、と内心突っ込む。
会長みたいなお父さんとか絶対嫌なんだけど。