歪んだ月が愛しくて1
「……立夏くん?」
その声にハッと我に返る。
気付くと目の前には心配そうな瞳で俺の顔を覗き込む葵がいた。
「ん?」
平然を装って首を傾げると葵は心配の色を濃くさせた。
「邦光くんが言ったこと気にしてる?」
「んー…」
気にしていないと言えば嘘になる。
御手洗くんに言われたどうこうよりもその台詞が過去の光景を思い出させた。
あの日のことは俺にとってトラウマみたいなものだから。
忘れたくても、忘れられない。
「どうかな…」
両親が亡くなったあの日から俺はいらない子になった。
そのことをちょっと思い出しただけ。
「気にすることねぇよ。どうせただの八つ当たりなんだから」
「八つ当たり?」
「邦光くんは昔から神代会長のことが好きなんだよ」
「え、好きって…、ライク?」
「ラブ♡」
「中等部まで覇王親衛隊の幹部だったくらいだからね。だからさっきのオニごっこで立夏くんと神代会長の戦いを見て…」
「立夏が生徒会長の顔面に蹴り入れたのが許せなかったんじゃねぇの?」
「あ、それで」
確かに会長は端から見れたらモテる要素しかない人だとは思う。
身長も高くて無駄に美人だから男としては何とも羨ましい容姿だし、おまけに超が付くほどの金持ちだ。モテない要素を探す方が難しいだろう。
でもそれはあくまで第一印象だ。
実際は初対面で態度悪かったり、態と挑発して来たり、人のことバカバカ言ったり、あのひん曲がった性格のどこがいいのか俺にはさっぱり分からない。
『訳分かんねぇから知りたくなる』
ムカつくのに。
あの目も、声も…。
それなのに目が離せない。
あの黒曜石から逃げられない。
ムカつくはずなのに何でだろうか。
「そう言えば立夏くんは誰とペアなの?」
「ペア?」
「未空くんから聞いてない?肝試しはペアで行動するんだよ」
「あ、忘れてた」
「忘れてたんかい」
「何番?」
「多分98」
「多分かよ」
「98?確か頼稀くんも…」
「98だ」
「マジ?」
「おう…」
……あれ、何かテンション低い?
「どしたの?」
「……いや、何でもない」
そう言って顔に影を落とす、頼稀。
何でもない感じに見えないから聞いてるんだけどね…。