歪んだ月が愛しくて1
「……悪かった」
「は?」
漸く言葉を発したと思えば今度は訳の分かんないことを言い出した。
「……何、謝ってんの?」
「アゲハさんに捕まったこと。悪かったな…」
「何で?別に頼稀が謝ることないじゃん」
「いや、あれは俺のミスだ。アゲハさんが介入して来ることまできちんと計算に入れていれば…、迂闊だった」
そう言って頼稀は両手で頭を抱える。
そんな頼稀を見て大袈裟だなと思う反面、誰よりも俺が会長専属の庶務になったことを気にしていることに気付いた。
「……頼稀のせいじゃないよ」
そんな顔をさせたかったわけじゃない。
ましてや謝って欲しいわけでもない。
「あれは…、元はと言えば会長の挑発に乗って安請け合いした俺のせいなんだよ。だから頼稀が気にすることじゃない」
「……無理だ」
「無理じゃない。例え頼稀と未空が捕まらなかったとしても俺が会長に負けた時点で俺のせいなんだよ。結論頼稀が気にする必要はどこにもありません、はい論破」
「おい、勝手に論破してんじゃねぇよ」
「だって頼稀しつこいんだもん」
「悪かったな、しつこくて」
「そもそも何で頼稀は俺を逃してくれたの?会長のパシリにさせないため?」
「それ以外に何がある」
「………わっかんないんだよな」
「分かんない?」
頼稀は眉間に皺を寄せて言う。
でも分からないものは分からないのだ。
頼稀が俺を会長専属の庶務にさせたくないことは薄々勘付いていたが覇王への反骨心故の行動だと思っていた。
頼稀が覇王を目の敵にする理由も分からないが、一番分からないのはこんな俺なんかをどうして気に掛けるのかってことだ。そんな価値もないのに。
「……鈍感」
「は?」
「未空なんてモロ顔に出てるのにな」
「……俺、鈍感?」
聞き捨てならない。
「正確に言えば他人のことには敏感なくせに自分のことになると無頓着ってこと」
「悪口?」
「事実だろう」
身に覚えがありませんが。
「兎も角、俺はお前との約束を守りたかっただけだ。お前が気に病む必要はねぇよ」
「約束?」
「言っただろう、変態共からお前を守るって」
「別に、あれは約束なんかじゃ…」
そう言い掛けた時、頼稀は俺の言葉が遮った。
「守らせろよ俺にも…。少なくともここにいる間くらいは」
頼稀の瞳が真っ直ぐに俺を捉える。
堂々としているようでどこか不安げで切ない表情に思わず言いたいことを飲み込んだ。
何が気に病む必要はないだ。
一番気にしているのはそっちじゃないか。
「それにアゲハさんの命令でもあるしな」
「……そのアゲハに捕まったくせに」
「だからってアゲハさんはお前を裏切ったわけじゃない。あの人は皇先輩には逆らえないんだ。……まあ、逆らう気もないんだろうが」
「アゲハが九澄先輩に惚れてるのは聞いたよ」
「ここじゃ珍しくもない話だけどな」
「そんなもん?」
「そんなもんだ」