歪んだ月が愛しくて1
「―――行けよ」
「、」
男達には聞こえない小さな声で呟くと頼稀が目を丸くさせて俺を見た。
「希が心配なんだろう?」
「あ、たり前だ…」
「俺も。だから頼む。俺の代わりに希を助けてくれ」
「けどお前はっ」
「俺は大丈夫。ブランクはあるけど会長のお陰で大分解れたし」
「お前、まさか…」
「だってこれって無意味な喧嘩じゃないだろう?」
拳を握る。
じんわりと滲む手汗を掌に馴染ませる。
「りっ、か…」
頼稀の感情が手に取るように分かる。
今すぐにでも希を助けに行きたいのにどうにかして俺を戦わせたくないと思っているんだろうな。
そんな複雑そうな表情されたら俺だってどうしていいか分からなくなるじゃん。
でも突き放す。
「それにコイツ等が用あんのは俺だろう。だったらお望み通り相手してやるよ。頼稀は希のことだけ考えてればいいの。アーユーオーケー?」
「……下手クソ」
「そこは突っ込むなよ」
大切なものを…、選択を間違えさせないために。
「……悪い」
「謝んな」
「頼んだぞ」と言う意味を込めて背中を叩いてやれば頼稀はゴールまでの道のりを全速力で駆け出した。
どうか希が無事でありますようにと心の中で強く祈ってがむしゃらに駆け出す頼稀の背中を見送った。
「あーあ、お友達は行っちまったな」
「お前よりあっちの友達の方が大切ってわけか。まあ当然だな」
「立夏ちゃんかわいそぉ〜」
「………」
スッと目を細めて男達を睨み付ける。
人の気持ちを理解しようとしないクズには分からない。
頼稀がどれほど希を大切に想っているか、どれほど俺のことを気に掛けてくれているか。
「さて、邪魔者がいなくなったところで」
どれほど頼稀の選択が正しかったか。
獣を叩き起こした罪は重いぞ。